『ないもの、あります』という本がある(クラフト・エヴィング商會)。聞いたり読んだりしたことはあるが、実際に見たことのないものがラインアップされている。左うちわ、転ばぬ先の杖、思う壺、一本槍……という具合。在庫があるなら、プレゼント用に一つ手に入れてみたくなる品々だ。
贈って喜ばれるような新種のプレゼントを文房具に求めたことがあるが、思いのほか発案に苦労した。まじめに書くならいくらでも書けるが、ユーモアを込めてことば遊びするには文房具は案外種類が少なく、すぐにネタ切れを起こしてしまった。未完の『愉快な文房具』のメモの一部をアイウエオ順に紹介しよう。
エンピツ削り筆箱 筆箱の蓋を開けると端に削り器が付いている。よくエンピツ書きした夜に数本まとめて筆箱に入れておくと、翌朝ピンピンに尖らせてくれる。
惜しいピン 押しピンの一種。安全性を考慮してピンを短くしたため、壁に貼った紙がすぐに落ちてしまう短所がある。ピンも同時に落ちるが、ピンが短いので靴さえ履いていれば踏んづけても足裏まで届かない。なるほど安全である。
気に止めるクリップ いわゆるリマインダー。忘れないようにと手帳に書いても、手帳を開けなければ意味がない。手のひらを備忘録に使うのは格好悪い。と言うわけで、マーカーで書き込めるホワイトボード仕様のクリップが生まれた。さて、このクリップ、どこに着ければ気づきやすいか? それが一つの課題になっている。
十数年筆 万年筆は万年使えない。詐称ではないのかという声もちらほら聞かれる。数年筆なら誠実であるが、「数年は短すぎる」という批判があり、十数年筆と言い換えようということになった。しかし、人によっては数十年使うから、数十年筆という代案も出ている。
罪消しゴム 小さい消しゴムなので、大罪を消してなかったことにはできない。「飲み会の約束を破った」とか「仮病で仕事を休んだ」とか「グラスを洗わずに客に出してしまった」などの、ちょっとした罪悪感もしくは気まずさ向き。罪の名を書いて消すだけで懺悔効果があるらしい。
和ゴム 「わごむ」と読んでもいいが、輪ゴムとの違いが出ないので「なごむ」と読ませる。対象を単に束ねるだけではなく、しっかりと和ませ、必要に応じて和えてくれる。
糊のり 糊はうすく平らに伸ばせば貼り合わせやすいが、テクニック不足の子どもにとっては扱いにくい。そんなことを気にせずに「盛れる」のがこれ。好きなだけ楽しくノリノリに使えば、勝手にうすく平らにまんべんなく広がってくれる。
入ル倍ンダー ファイルとバインダーの複合機能を持つ「放ルダー」。どんどん放り込めばいくらで入り、通常の倍以上綴じることができる。
風船紙
本に貼り付けたポストイットや付箋紙が増えてくると、何のために貼ったのかが分かりづらくなり、また気になって貼ったにもかかわらず、情報が探しづらくなる。付箋紙の数は少なければ少ないほど参照しやすい。そこで、ここぞと言う時だけに使う付箋紙の登場。名付けて「ふうせんし」。貼るとページとページの間で小さく膨らむ。重要箇所が見つけやすく、ページがめくりやすい。但し、本を強く閉じると割れるので取り扱い注意。
ペン筆 筆ペンではなく、エンピツの一種である。筆ペンは使いやすいなどと言うが、実際の毛筆書きが下手なら筆ペンも下手と相場が決まっている。ペン筆はエンピツと同じように使うだけで、万年筆で書いたような筆跡を再現してくれる。