概念のコラージュ 1/2


絵が描かれた板に願い事を書くのが絵馬。首尾よく願いが叶ったら感謝の気持ちを込めてその絵馬を奉納する。

願いとはある種のテーマであり主題である。概念であり紋章的な標語であり、欲張りな関心の方向性を示す。アンテナを立てておけば、テーマについてあれこれと思いが巡り、それが刺激になって雑文の一つも書くようになる。


【考える】
物事を知るだけでは役に立たない。誰もがクイズ大会に出場するわけではないのだから。知識を身につけてわかることと考えてわかることの間には埋めようのない隔たりがある。

【観察】
観察は客観的か? いや、偏見のない観察などありえない。観察は観察者の主観でまみれている。なぜなら、観察は固有の体験だからである。主観だからと言って、困ることはない。むしろ、客観だと見なすから問題が生じる。

【風景】
目の前に広がる光景や景色は、しばらく眺めているうちに風景と化す。風景は人間の想像の産物である。自然は人の存在と無関係に存在するが、風景は人の認識によってはじめて姿を現わす。

【にっぽん
日本史なら「にほん」。日本郵便は「にっぽん」であり、郵便切手にはすべて“NIPPON”と印刷されている。「頑張れ、にほん!」では頼りない。「にっぽん」でなければ励ましにならず、元気も出ない。

【都市】
都市は現実であり幻想である。人は都市に生きながら、都市が内包する幻想に振り回される。万華鏡のように都市をくるくると回せば変化する。構築とカオス、希望と絶望、活気と倦怠……形と色が変わる。

【物語】
人の生き方、諸々の事柄を語ることによって様々な物語が生まれた。虚構も脚色もいらない。ただ人について、人を取り巻くものについて、手を加えずに語るだけで物語になってくれる。

【食卓】
食卓はもはやテーブルを意味しない。テーブルならテーブルと言えば済む。食卓は食事や食文化のことにほかならない。食卓を囲むとは誰かと一緒にありがたく食事をいただくことだ。ただテーブルに着くだけではない。

【本棚】
読んだ本を並べても、読まない本を蔵書として保管しても、本棚は本棚。一列一段でも五列五段でも本棚は本棚。背表紙をこちらに向けて本棚に並べたくなる本がある。本は本棚にあって本らしくなる。

【生きる】
どこまで行っても生きるとは現実であり現在進行形である。この絶対的な現実と〈いま・ここ〉を認識しているかぎり、「生きる」以外の他の概念がそれぞれ固有の意味を醸し始める。