立地という個人的な都合

自宅からオフィスまでは徒歩で10分ちょっと。自転車なら5分もかからない。気分に応じて歩いたり自転車に乗ったりしている。自宅の蔵書をほぼオフィスの図書室に移しているので、休日に本を読もうと思えばオフィスに行く。通勤時間往復3時間という知人からすれば至極便利なのだが、さらに近い場所に引っ越そうと考えている。

立地。単独でそのまま使われることはめったにない。たいてい「立地」とか「立地がいい・・」という具合に使われる。絶対的な立地条件などない。立地には個人的な都合が反映される。よく通う目的地に近い所に住んでいれば便利で、そこから遠い人には不便。遠近感も人それぞれ。立地の良し悪しに万人共通の条件はありえない。

四十代前後の働き盛り稼ぎ盛りの頃に「東京にもう一つオフィスを持てば」と助言されたことがある。「あなたの仕事は東京のほうが多いから」という理由。月のうち何日か東京にいれば何かと便利で仕事も増えるかもしれないが、その便利と活動機会を享受できる東京は大阪からは遠い。助言者であるその東京都民は東京の立地が大阪よりも優れているという前提に立っていた。


この話を奈良県民の知人に言ったら、「いや、新幹線や空港のないうちに比べればずっと便利」と大阪を羨んだ。奈良に住んでいたこともあるのでわかるが、羨むほどの差があるとは思えない。五十歩百歩である。

大阪の中心街で住み働いているが、自宅を出て伊丹空港から飛んで東京都心まで4時間かかる。新幹線を使ってもほとんど同じ。この4時間をどう見るかで立地の好悪が決まる。4時間というのは労働時間的には半日である。東京以外にも数時間以上かかる各地へ出張してきたが、ほぼ前泊だった。仕事とは言え、前泊しなければならない点で出張先は好立地ではない(自分にとって)。

大阪の玄関口の梅田まで自宅から3駅。所要時間わずか10分。「便利ですねぇ」と言われるが、映画を見る以外にあまり用はないので、そうは思わない。車に乗らないから、メトロの3路線の駅が徒歩5分以内にあるのは都合がいい。大規模書店が歩いて10分以内の場所に2店舗あるが、これは面倒くさい。10かかるのは5分に比べて立地が良くない。贅沢だと思われるかもしれないが、個人の都合だけが立地の決定要因なのである。したがって、話は大きく飛ぶが、「世界のどこが一番立地が良いか?」という問いにほとんど意味はない。