雲からできた綿菓子

その日、出張先にいた。午後の講演の開始前、自販機の缶コーヒーで一息つくことにした。同じフロアでは地場産業展が開かれている。天井まで届きそうなガラス窓の外は雲が多かったが、よく晴れていた。建物の外に出た。


しばらくして、展示会場から若い母親と女の子が歩いてきた。女の子は綿菓子をなめている。母親と目が合い、「失礼ですが、その綿菓子、どこで売っているんですか?」と尋ねた。「これ、無料ですよ。アンケートに答えたら、くれたのです。」 綿菓子が欲しかったのではない。なぜこんな場所で綿菓子? と思ったから。

女の子、おいしそうになめている。「3歳半……くらいかな?」と聞けば、「先日4歳になりました」と母親。ぼくは青空に浮かぶ雲を指差して女の子に言った。「その綿菓子を作ってくれたおじさんはね、朝早く飛行機に乗ってあの雲を取りに行ったんだ。そしてね、持って帰ってお砂糖をふりかけてみんなに配っているんだよ。」

女の子は照れくさそうな表情をして、母親に顔を向けた。そして、綿菓子を口元から離して雲を見上げ、白い雲と綿菓子を何度も見比べていた。

「さあ、行くわよ。」 母親の声に促されて女の子は歩き始めた。少し歩いたところで振り返った。そして、にっこり笑ってぼくに言った。「ウソでしょ!?」 絶妙の間だったので、ぼくは吹き出した。