主張するゴシック、誘う明朝

書体は味わい深い。書体は差異でできている。人間の体つきと同じく、文字にも様々な体つきがある。よくぞ「の身」と表現したものだ。

ことばはそれぞれ固有のイメージとニュアンスを共通感覚的に備えている。ぼくたちは「さて何が書いてあるか」と文字を読むが、読む前に書体の見た目ですでに雰囲気を感じ取っている。

主要な書体はおおむねゴシック体と明朝体の二系列に分かれる。ゴシック体は字画の多少に関係なく線の太さが均一だ。これに対して、明朝体の文字は一画一画の線の太さに変化があり、ハネや曲線に特徴がある。読み手が受けるイメージやメッセージ性はゴシックと明朝では大きく異なる。

力強く、注意喚起力のあるゴシック体は「主張する」。ゴシック体は広告や雑誌記事の見出しに使われることが多い。他方、明朝体は線に変化があるのでパターン認識しやすく可読性が高く、長文に向いている。書物の本文にはほぼ明朝体が使われている。明朝体は読み手を「いざなう」。

標識の書体の定番はゴシック体だ。指示に適している。先日、中之島を歩いていた。勝手知ったるエリアだから迷うことはない。じっくり標識を眺めることはなかった。なにげなく飛行機雲を見上げたら標識も目に入った。大阪市役所、バラの小径、北浜駅、天神橋、バラ園の文字。すべて明朝体である。いつから明朝体を使っていたのだろうか。

文字が威張っていない。主張しすぎていない。やさしく場所の方向を指し示している趣が感じられる。なじみの地名が洗練されたように見えて新鮮だった。この標識に誘われるまま歩を進めてしまうオトナがいるに違いない。