注意書き考

電車に乗り込む。ドアの内側を見ると、たいてい「注意」を促す文字やアイコンのシールが貼ってある。「閉まるドアにご注意ください」というアナウンスを耳にすることもある。これに先立って、「駆け込み乗車はおやめください!」という呼びかけをホームで聞いている。

どの地方の路線だったか忘れたが、電車のドアに「乗降車時には、戸袋に指を引き込まれないように注意してください」という、非常に丁寧に描写された注意喚起のステッカーを見た。この記述に動機づけされて、ついシミュレーションしたくなる者がいないともかぎらない。

社会の隅々に注意書き表示がおびただしい。音声バージョンも氾濫している。注意に加えて「どこどこ駅では何々線に乗りかえよ」や「次の駅では右側の扉が開く」などの説明もするからアナウンスが過剰になる。先日の特急。乗車した駅から次の停車駅までは約10分。最初の56分は間断なく注意と説明とお知らせが告げられた。日本語の他に英語、中国語、韓国語だから、アナウンスはますます長くなる。

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オフィスのシュレッダーには「警告」のアイコンがあり、「稼働中は投入口付近に手を近づけないでください。用紙と一緒に手が投入口に引き込まれ、けがの原因になります」と書かれている。これもかなりリアルな描写だ。指先ではなく、いきなり「手」である。これは注意喚起のためと言うよりも、責任回避のための説明文と言うべきか。

自動車の安全運転を促す標語の代表格は「飲んだら乗るな! 乗るなら飲むな!」と「飛び出しに注意!」だろう。昨今、高齢の運転者の過失による悲惨な交通事故が後を絶たない。巻き込まれて亡くなるケースも少なくない。自動車事故の件数、電車やエレベーターやシュレッダーによる事故の比ではない。

車の運転手には「私は殺人装置に乗っている」と自覚させ、なおかつ車には「人を轢き殺すことがありますので、ご注意ください」というステッカーを大きく貼る。電車のドアにしていることを車にしない理由はない。と言ってはみても、健気に注意書きを読みアナウンスに耳をそばだてる人などほとんどいないと思われる。

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岡野勝志(おかのかつし) 1951年大阪生まれ 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター 岡野塾主宰 ヒューマンスキルをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。 マーケティング、コミュニケーションにまつわる企業や人

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