愉快がる生き方

ジョージ・クルックシャンク(1792-1878)は英国の諷刺画家であり挿絵画家である。絵画展に行ってきた。彼の作品は時代を反映した諷刺画なので、時代考証を踏まえないと読み解くのが難しい。けれども、小難しい意味を棚上げしてひとまず鑑賞してみる。精細なエッチング技法が描き出す雰囲気は理屈抜きに微笑ましい。大いに愉快な気分にさせられた。

愛想笑いで場をやり過ごす人を見受けるが、実に情けないと思う。笑うに値しなければにこりともしなければいいではないか。社交辞令と妥協は愉快の敵だ。愉快がるのは条件反射的におもしろいと感じ、あるいは本心からおもしろいと思うからである。

趣味も仕事もおもしろいから続けられるのであり、続けているうちに愉快がる技術が身についてくる。ちなみに、難しさとおもしろさは相反しない。むしろ、容易にうまくいかないとかなかなか上達しないことは愉快の条件でさえある。


どんな些事であれ、小さな雑学であれ、知に貪欲であろうとする他者を小馬鹿にしない。目くじらを立てて饒舌に語る青二才を嘲笑しない。そういう姿勢を保っていると、愉快領域が広がってくる。愉快だと思わないのは、己の鈍感かもしれないとたまには自省してみる必要がある。

人が何かに凝るのは、理屈ではなく、愉快だからである。どこがおもしろいのかと他人に思われようと、ぼくは愉快だから散歩し、愉快だから珍しいものを食べ、愉快だから談論風発する。大仰な志に動かされているのではない。

人生の究極は幸福であると喝破したアリストテレスにあやかれば、日々生きていけるのは愉快だからであり、愉快が幸福に近いからである。愉快がっていれば、早晩、辛さや難しさが軽くなる。軽くなるかもしれない辛さや難しさを回避していては、幸福の権利を放棄したも同然だ。

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proconcept

岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

「愉快がる生き方」への2件のフィードバック

  1. ご無沙汰しています。私が出てくると場の格調が下がるかな?と
    しばらく我慢していましたが、最近書かれていることは、今の
    私に向かって書いて下さっている?と自分勝手な思い込み。
    やっぱり岡野先生大好きです。
    来年70歳。仕事を辞めてどうやって生きていこうか模索中ですが、
    何でも愉快なこととして面白がり、周りと関わっていきます。

    1. 昨年はお会いできませんでしたね。今年はまだお声が掛かっていません。有志で企画してお呼びしたいと、ちらっと耳にはしましたが……。
      女子56歳か57歳頃からコメントをいただいていました。その女子が来年古希になるとは、感慨ひとしおです。自分だけが止まっているような錯覚(笑)
      ぼくの駄文が少しでも励みになるのであれば光栄です。ここ数年は月に10本書くことをミッションにしていますが、今年などはこの歳にもかかわらず、たくさんの仕事をいただいているので、書く時間を見つけるのが大変です。
      ともあれ、お互いに愉快に日々を過ごしましょう。愉快を妨げる邪魔要因――人、もの、金――にこだわるのをやめましょう。

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