古い雑誌のページをめくる

昨年7月に自宅書斎の蔵書約4,000冊をオフィスに運び込んだ。自宅には書棚がそのまま残っており、まだ数百冊の本、雑誌、図録が平積み状態。これらはさしづめ「残兵」、処分しづらい。

奥行が浅い書棚なので、平積みだと大判の雑誌ははみ出した状態。落下しないように積み替えていたら、19491121日号の雑誌“TIME”が現れた。“TIME”はこれ一冊のみ。価格20セント。古書店で買ったのかもしれないし、もしかすると、30年前に年間購読申込みした際のギフトアイテムだったかもしれない。入手ルートは定かではないが、この一冊には見覚えがある。

紙の匂いや色褪せ感からして70年前の発行当時のもので、30年前の復刻版ではなさそうだ。英語を独学していた頃、雑誌は“NEWSWEEK”を読んでいたが、社会人になりたての頃から数年間は“TIME”に変えた。読むと言うよりも格闘に近い日々だった。


“TIME”という週刊誌は見せるものではなく読ませるものである。見出しにはFranklin Gothicフランクリンゴシック、本文にはTimes New Romanタイムズニューローマンという書体を昔からずっと使っている。広告を除いて、ほぼこの2種類の書体で記事を読ませる。アルファベット26文字で文章を綴らねばならないから書体の変化をつけたくなりそうなものだが、意に反して、欧米の雑誌のタイポグラフィの理念はルールに厳しく、書体のデパートのような紙面づくりを決してしない。わが国のデザイナーや編集者が多種多様な書体を使いたがるのと真逆である。変化に富んだ紙面を目論んで書体を多用しても、可読性が著しく低下するので逆効果になる。

当時の“TIME”は広告の掲載がかなり多い。見開き紙面スペースの4分の3が広告というページが当たり前のように出てくる。広告の表現も商品・サービスの内容も今とはだいぶ違っている。タイプライターの広告が目立つ。裏表紙はタバコの全面広告。保険や自動車も多いが、何と言っても酒の広告が他を圧倒している。

数あるうち特に印象的なのがプエルトリコ産のラム酒の広告。ラムを使った有名ホテルのカクテルを「3つの簡単レシピ」として紹介している。読み間違いの余地のない、きわめてシンプルなヘッドラインだ。下段左に小さくキャッチフレーズが書かれている。“Light and Dry―not heavy and sweet.”  ありきたりな4つの形容詞だけで口当たりを明快に表現しているのはお見事だ。「軽くてドライ――強くなく甘くない」。これでどんな味なのか、何となくわかってしまうから不思議である。

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proconcept

岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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