当たり外れ――コーヒー編

喫茶店でもカフェでもいい。コーヒーを飲みに入る。入れば少なくとも半時間、時には1時間ほど長居する。手持ちぶさたにならないよう、本とノートは必ず小さなバッグに入れてある。店の看板や店内の雰囲気・インテリア、応対する店員の立ち居振る舞いは客の気分に影響するが、コーヒーそのものの香りと味がやっぱり絶対条件。

初秋の、まだ暑さが残る午後、たまに入るカフェDCに久しぶりに入った。この店では決まってエスプレッソだが、喉が異様に乾いていたので初めてアイスコーヒーを注文した。エスプレッソのうまさには及ばなかった。これならホットのブレンドにしておけばよかったと少々後悔。

とは言え、感じのいいマスターだし、少し長居できる雰囲気もあり、文章を思いつくまま綴るには落ち着く場所だ。しかも、250円なら文句は言うまい。一応合格。


その翌週、老舗の昭和感たっぷりの喫茶B屋へ。数年ぶりになるので、この店の味はうろ覚えである。店の定番の420円のブレンドを注文する。香りも立たず、一口啜れば味が薄く、お粗末だった。以前はこんな味ではなかったはず……。懐かしさが漂う希少な喫茶店ではあるが、偶然通りがかったとしても、もう二度と入らない。

ここはマスターが一人でやっている店。注文したブレンドをカウンター越しに出し終えたら、端っこの空いているカウンター席に座ってスポーツ新聞を読み始めた。競馬欄に食いついている。


オフィスに近いカフェLの売りは自家焙煎のエスプレッソ。ある日は焙煎7日、別の日には焙煎15日とかの表示があり、同じ豆だが焙煎の違うエスプレッソを飲み比べできる。本場イタリアと互角の上等の味である。以前は週に二度通っていたこともある。いつぞやアイスエスプレッソを注文した。新顔のバリスタがぼくに尋ねる。「アメリカーノですか? 水で薄めますが、よろしいですか?」 こんなことを聞かれたことはない。質問を無視して「エスプレッソのアイス」と念を押した。

出てきた注文の一品は、エスプレッソ用の焙煎の香りはするものの、想像以上の薄味だった。メニューにアイスエスプレッソがなく、アイスの注文が入ると水で薄めるのがこの店の流儀なのに違いない。水増ししたらエスプレッソの強さと濃さは半減する。

アイスエスプレッソはあらかじめグラスに氷を一杯入れておき、そこに熱々のエスプレッソのダブルを注ぐのが正解。オフィスのマシンを使って作る時はそのように淹れる。そうしないと、ホットで飲むうまさがアイスで生きてこない。ぼくの淹れるアイスエスプレッソのほうが格段に上である。

コーヒーの当たり外れに喫茶店の当たり外れ。よくあることだが、ホットでもアイスでも同じ確率で外れに遭遇する。当たり外れは自己責任であるから、文句は言えないし言おうとも思わない。ただ二度と行かないという選択肢があるのみ。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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