聴いていたふり

フランソワ=オーギュスト=ルネ・ロダンは、繰り返される日々の、ぼんやり眺めるのとは違った空を――たぶん透き通るような広くて青い空を――ある日、初めて照見した。その時のことをこう言っている。

私は毎日この空を見ていると思っていた。だが、ある日、はじめてそれを見たのだった。

照見したことに確信しているけれど、それまでの空の見方については何も言っていない。鈍感だったとか怠慢だったとか、特に言っていない。

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ぼくはと言えば、十数年同じ道をほぼ毎日歩いている。この時季、枯れ落ちて重なり合った葉を踏まずには歩けない。その日、特にゆっくり静かに歩いたわけではないのに、初めてそよ風のささやきを聴いた。それまでも聴いていたつもりなのに……。

ロダンのようにそれまで気づかなかった理由について黙っていようか。実は、それが案外つらい。「鈍感だった、怠慢だった」と述懐して片づけるほうがよほど楽だ。さあ、どうしたものだろう。しばらく考えて、折り合いをつけることにした。

ぼくは毎日この道で風のささやきを聴いていると思っていた。だが、ある日、はじめてそれを聴いたのだった。それまでは聴いていたふり・・をしていた。

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岡野勝志(おかのかつし) 1951年大阪生まれ 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター 岡野塾主宰 ヒューマンスキルをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。 マーケティング、コミュニケーションにまつわる企業や人

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