リクエストの聞き方

コントローラ【ロサンゼルス共同】 任天堂は(……)、人間型キャラクターが架空の生活を楽しむ人気ゲーム「トモダチコレクション 新生活」(欧米版は「トモダチライフ」)で同性婚ができない設定になっていることに対し謝罪するコメントを出した。(……)米アリゾナ州の同性愛者の男性が、設定を変えるよう任天堂に要請していた。任天堂は「残念ながらこのゲームの設定を変えることは不可能で(出荷後の)修正もできない」とし「多くの人を失望させたことを謝罪します」と述べた。


受注型商品の製造販売なら話は分かる。しかし、見込型商品の製造販売にあたっては、購入者全員の要望を先取りして反映することなど不可能なのである。任天堂は一部の同性愛者を失望させたかもしれないが、謝罪表明までする必要があったのか。

ゲームソフトが「シゴトライフ」だとしよう。「オレの職業が入っていないじゃないか!」などというクレームにいちいち謝罪するのか。一部のホームレスからの「ホームレスも職業だ。なぜ不在設定になっているのか!」という声にも耳を傾けるのか。職業など国勢調査の範疇外にいくらでも存在する。そのすべてを想定してゲームソフトを作るのは絶望的だ。

「ホビーコレクション」なるゲームを買ったが、都都逸がない、パッチワークがない、チャトランガ(古代インド将棋)がないという不満も出ないとはかぎらない。ゲームデザイナーにはコンセプトがある。それに基づいてホビーを取捨選択するだろう。売れると見込んで開発して売るのだ。リクエストに適わなければ売れないからリスクも背負う。購入希望者も自分の趣味が設定されていなければ買わなければいい。ゲームソフトにかぎらず、商品は買ってみなければ分からないものだ。当たり外れがつきまとう。

「同性愛者」に神経をピリピリさせること自体が、ある種の偏見ではないか。「この商品では想定していません。以上」でいいはずだが、おそらく、ここは、そんなクールな姿勢を見せず、また反論などもせずに、穏やかに謝罪で収束させようとしたのに違いない。厳しく言えば、意気地がない。


この新聞記事を読んだ一週間後に、この対処とまったく違う一件があった。六本木の「すきやばし次郎」に入店した中国人留学生が生の魚を食べられないから焼いてくれと言ったそうである。しばし口論になったそうだが、店側は毅然と対応しノーを貫いた。店の融通の無さへの批判が予想されたが、ネット上で中国の同胞たちは総じて店側に軍配を上げた。

できる・できないの話ではない。ネタを炙る寿司もあるから、焼けと言われれば焼くことくらい朝飯前だろう。しかし、炙るネタや煮るネタを慣習的に決めている。すべての生魚をリクエスト通りに焼いたり煮たりするわけにはいかないのである。買う側にもリクエストがあるだろうが、売る側にも絞り込んだ顧客を想定したコンセプトがあるのだ。お客さまは毎度毎度神様などではない。

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proconcept

岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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