眠れなくなる回文創作

軽い機敏な仔猫何匹いるか二十数年前に土屋耕一の『軽い機敏な仔猫何匹いるか』を読んだ。後先を考えずにことば遊びに食いつく性分だから、読後約一年間は回文熱が高じてしまった。仲間と創作に励み競ったこともある。

回文。上下同読のことば遊びである。冒頭の本は土屋耕一が創作した回文を集めたもので、タイトル自体が「かるいきびんなこねこなんびきいるか」と回文になっている。

「トマト」や「新聞紙」も上下同読だが、文章にはなっていない。おなじみの「竹やぶ焼けた」(たけやぶやけた)。短いが、一応文章になっている。「品川に今住む住まい庭が無し」(しながわに いますむすまい にわがなし)もよく知られている。五七五では「我が立つた錦の岸に竜田川」(わがたつた にしきのきしに たつたがわ)がきれいにまとまっている。古来、俳句や和歌ではおびただしい回文が作られていて、「むむ、これで回文になっているのか!?」と目を疑うほどよくできたものもある。下品系では「ヘアリキッドけつにつけドッキリあへ!」 これはぼくが作ったのだが、まったく同じものを作っている人が何人もいる。回文には制約があるから、短文の場合は偶然の一致がよく起こる。


オリジナリティを意識するなら長文である。しかし、長くなればなるほど、助詞が抜けたり文法が変則になったりするし、ふだん使わない言い回しを強引に捻り出さねばならない。自然文で作るのは決してやさしくない。なお、「は⇔わ」「お⇔を」「清音⇔濁音」などは互換性ありと見なす。

ワープロ時代にずいぶん作ったが、データがどこにあるかわからない。ワープロとフロッピーはオフィスのどこかにあるはずだが……。自作だから十や二十は何とか思い出せる。一つご笑覧いただこう。

「今朝女の子 飯時に土間で危機を聞き 出窓に木戸閉め この難を避け」 (けさおんなのこ めしどきにどまでききをきき でまどにきどしめ このなんをさけ)

回文をやり出すと、何をしていても単語や文章が浮かんでくる。たとえば「空が青い」と頭で響くと、「いおあがらそ」と下から音を逆読みする。やがて、ことばが次から次へと押し寄せてきて眠れなくなる。一度は経験しておいてもいいと思うが、苦労の割には駄作しかできない。佳作の一つや二つができるまでは少々時間もかかるし、それなりの覚悟はいる。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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