チップとサービス料

最近はあまり聞かないが、以前は「ローマのレストランでぼったくり!」というようなニュースをよく耳にした。イタリアには5回旅して20以上の街を訪問、幸いにしてレストランやタクシーでぼったくられたことはない。ヴェネツィアのレストランでチップを置かずに店を出ようとしたら、「チップをよこせ!」と高圧的に迫られたことが一度だけある。チップをせがんだという理由だけでぼったくり扱いできないが、彼らにとって日本人は気前のいいお客さんなのだろう。ぼったくりで生計を立てるなら、ぼくも日本人をターゲットにする。

イタリア語でチップのことを「マンチャ(mancia)」と言う。渡す側が使うと横柄に聞こえるかもしれない。テーブルチャージは「コペルト(coperto)」で、だいたいカゴに盛ったパン代になっている。これも客側はあまり使わない。サービス料は「セルヴィーツィオ(servizio)」。お勘定の「イル・コント(il conto)」と並んで、このことばは客側が使う頻度も高い

気に入ればチップを置くのをためらわない。だが、サービス料込みの食事をしたのにさらにサービス料を上乗せされるのはたまらない。だから接客係に“Il conto, per favore.“(お勘定してください)と告げた後に、”Il servizio é incluso?“(サービス料は込み?)と必ず聞く。通常は含まれていることが多いので、わざわざ聞く必要がなさそうだが、それでも聞く。やりにくい客と思われてもいい。こう聞いておけば、接客係もぼったくりしにくくなる。


と書いたものの、過剰な心配は無用。観光地の例外的な悪徳業者を除けば、イタリアの店はおおむね誠実であり店員もフレンドリーで、楽しく食事ができる。上記のサービス料のことと、あとはチップのことを少し知っておけば十分である。旅行ガイドには型通りのチップの心得が紹介され、ほとんどがチップを渡すという前提で書かれている。実は、必ずしもそうではない。

1euro italy
ダ・ヴィンチの人体図が刻まれたイタリアの1ユーロ硬貨。

たとえば、エスプレッソ一杯をテーブルで注文する。運ばれてきた時に勘定を済ませるので、飲み終えたらいつテーブルを立ってもいいわけだ。店と給仕ぶりが気に入ったら、日本円で20円か30円ほどテーブルに置けばいい。イマイチと思ったらそのまま立ち去ればいい。食事の場合はすべて終わった時点で「お勘定」と告げる。レジへ行かなくても、テーブルに着席したままカードで決済するか現金で支払う。これまた、気に入ればチップを置けばいいが、サービス料が含まれているのなら、敢えてチップをはずむことはない。

ローマのとあるオープンテラスで食事をした時、食後に「お勘定」と接客係に告げ、例によって「サービス料は込み?」と聞いた。彼は苦笑いしてうなずいた。観光地のど真ん中で元々料金設定が高いから、勘定を済ませてお釣りを受け取り、チップは置かなかった。セレブな旅行者ではないので、食事のたびに気前よく振る舞うわけにもいかないのである。

但し、チップには独特の商習慣や雇用事情が背景にある。少なくとも、過去にはあった。そのことについては別の機会に書くことにしたい。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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