風は窓越しで聞こえるが、風の真っただ中にいても風そのものは見えない。視力がよくても、たぶん見えない。視力の問題であるはずはないけど。
音というのは、聞こえるものであって、見えるものではない。そう信じて疑わない。ところが、「観音」がある。音が見えている。
川岸に佇めば、川の流れが見えて、同時に音が聞こえる。ひょっとすると、風の音を聴きながら風の姿が見えるのではないだろうか。風が見えないのは、もしかすると、ぼくたちの怠慢のせい……いや、怠けてなどいない。ただ、ちょっと注意力が足りないのかもしれない……。
そよ風は梢を撫でるだけで、そこにとどまらない。枝葉を微かに揺らし、ついでにいくばくかの光を拾って帯や線を刻んで立ち去る。
帰路、公園の横道に沿って心地よくそよ風が吹いていた。