「十」何々と「十」何とか

四字熟語をビシッと英語で決めるのは難しい。四字熟語になる過程でニュアンスや文脈を閉じ込めているからだ。たとえば「十人十色」は、好きなこと、思っていること、性格などが人それぞれという意味。何が違うのかまで伝えようとすると、そのつど説明するしかない。

「十人十色をどう訳すか」と聞かれたら、コンパクトな表現の“To each his own”をすすめるが、「人はみな違う」ということは言えても、「何に関して」までは伝わらない。ちなみにGoogle翻訳では“Ten people, ten colors”と拙く幼く愛想がない。これでは人種の話になってしまう。色鉛筆の十本十色なら“Ten pencils, ten colors”でいい

十人十色以外に、「十何々と十何とか」という四字熟語がいくつかある。

百発百中だと弾がもったいないと思ったのか、「十発十中」というコストパフォーマンスのいい言い回しもある。いずれも、狙いを外さない、やっただけの結果が出ること。

使用例が少ないが「十全十美」というのがある。すべての要素がすべて美しいという感じがよく出ている。つまり、完全無欠で非の打ちどころがないさま。

「十月十日」もある。言うまでもなく、カレンダーの1010日、かつての体育の日のことではない。ご存知の通り、「とつきとおか」と読んで妊娠期間を示す。


十は、数字のちょうど10のことではなく、「いろいろ」とか「たくさん」の比喩である。一番ポピュラーな十人十色で済ませがちだが、冒頭で書いたように、意味を伝えようとすれば、何が人それぞれなのかを言わねばならない。「食べ物の味は十人十色だからね」というように。それなら、四字熟語だけでもっと具体的に言っておけばいいのではないか。と言う次第で、以前「十△十▼」という形式の創作四字熟語を作ったことがある。

十舌十味じゅうぜつじゅうみ  味覚は人によって違うこと。「これうまいねぇ」「さほどでもないなあ」という具合。自分が中トロ好きだからと言ってむやみに他人にすすめてはいけない。なお、この四字熟語は産地によって牛タンの味が変わるという語釈もできる。

十鼻十香じゅうびじゅうこう  この時期になると金木犀が香る。香ると言う人あり、匂うと言う人あり。臭うと書く人あり。あれはトイレの芳香剤の匂いだ、いやいや、心を落ち着かせる「甘いかほり」と人それぞれ。オーデコロンの纏い方にも気配りが必要だ。

十物十感じゅうぶつじっかん  同じコーヒー豆でも焙煎時間が10秒違うと味が変わる。挽き方も十段階以上あって、時間に長短が生まれ抽出成分も異なってくる。コーヒーと味覚のデリケートな関係は、そのコーヒーを注ぐカップでさらに印象に変化が生まれる。

十道十心じゅうどうじゅっしん  志す道によって心のありようも決まってくる。書道、華道、茶道、武道のみならず、鍛え貫き歩まねばならない道はいろいろ、精神のありようもいろいろ。ところで、この四字熟語、もしかして「十心十道」としても成り立つような気がしている。

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proconcept

岡野勝志(おかのかつし) 1951年大阪生まれ 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター 岡野塾主宰 ヒューマンスキルをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。 マーケティング、コミュニケーションにまつわる企業や人

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