語句の断章(28)普通

〈普通〉というのは、わかりやすそうでわかりにくい。よく使いよく耳にするという点で何となくわかりやすく、しかし、それ自体で身元証明ができないという点でわかりにくい。普通は、その左方向と右方向、あるいは、その上方と下方にあると思われる例外や極端との対比によってはじめて認識できる概念なのである。

たとえば「普通列車」は特急列車や急行列車との対比によってその正体をより明らかにする。つまり、それほど速くなく、各駅に停まるという、可も不可もない特徴が浮かび上がる。

『新明解国語辞典』は次のように普通を定義している。

㊀その類のものとしてごく平均的な水準を保っていて、取り立てて問題とする点が無い(良くも悪くもないこと)。
㊁その類のものに共通する条件に適っていて、特に変わった点が認められないこと。

㊀の意味で使う普通の対義語を「特別」、㊁の意味の対義語を「異常」としている。特別でもなく異常でもないことが普通ならば、人は在宅と外出を適度に使い分けるのが普通なので、ずっとステイホームしている状況は特別であり異常だということがわかる。ちなみに、家に閉じこもって外出しないことを、今ではステイホームと言い、この外来語が普通になった。他方、れっきとした閉居へいきょ」ということばはほとんど普通に使われなくなった。

「夕食は普通七時に摂る」や「今年の寒さは普通ではない」という用例にケチをつけるつもりはないが、普通というのはまじめそうではあるが、どうも面白味に欠ける。普通には笑いが少ないような気がするのだ。桂枝雀は笑いを「緊張と緩和」と捉えた。緊張と緩和が繰り返されると秩序が乱れる。笑いの多くは秩序の崩壊から生まれる。

ところが、権威にとっては規則性からの逸脱は都合が悪い。したがって、特別や異常などの異端の危険性を嗅ぎ取るのに敏な正統派ほど「型通りの無難」を歓迎する。型通りの無難というのが、まさに普通なのである。普通は良くも悪くもなく、かと言って、積極的に選択するものでもないが、権威や正統がひいきする普通がつまらないのは確かである。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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