どこに向かうのか?

著者ニコラス・ウェイド、英国人科学ジャーナリスト。題名『5万年前 このとき人類の壮大な旅が始まった』。帯には次のように書かれている。

あなたの祖先は、5万年前にアフリカ大陸を脱出した150人あまりの集団のなかにいた。[ヒトゲノムが紐解く、人類史の驚くべき事実〕

この本が発行されたのは14年前。5万年を語るうえで14取るに足らないが、実はこの十数年に限っても人類誕生から今に到る真実の解明はかなり進んだようだ。とは言え、大筋に関してこの一冊の価値が低められるわけではない。『サピエンス全史㊤㊦』を昨年読んだ流れで、本書を十何年ぶりかで再読してみた。

以前は、〈起源〉を解き明かそうとする、人類の誕生やホモサピエンスの出自などの本を好奇心の赴くままに、ずいぶん読んだ。起源についての真実は誰にもわからないし、著者も「アダムとイブに限らず、人類の起源にまつわるさまざまな物語は神話である」と言う。しかし、「ほぼ真なること」ならかなり解明されてきたとも言えそうだ。

ある意味で、日本人はどこからやって来たか、どういう系統から枝分かれしたのかなどよりも、5万年前の現生人類の出アフリカのほうが明らかなのではないか。エチオピアあたりから小規模集団が出発して紅海を渡り、海に沿って狩猟採集しながら東へ西へと散らばり、やがて世界のあちこちで定住するようになった……云々。「世界は一家、人類はみな兄弟」というスローガンはあながち間違いではなかった。


ダーウィンはまず『種の起源』(1859年)を書き、その後『人間の由来』(1871年)を書いた。歴史を遡って物事の原初や起こりに達するのが〈起源〉。素人にとっては起源よりも〈由来〉の方が関心が持続する。誕生したホモサピエンスがその後どのように枝分かれし、言語が分化し、体躯も見た目も多様化して今に到ったのか……こっちの謎解きを由来が受け持つ。

人類は今も進化し続けているというのが著者の持論だが、他方、進化は5万年前に終わった――つまり、5万年前の先祖と現在の人類は何も変わっていない――という主張もある。何を以て進化と呼ぶか次第だろう。類人猿からヒトへの何百万年をかけた進化を思えば、なるほど、出アフリカから現在までの5万年の進化などは微々たるものかもしれない。

地球の歴史46億年を1年のカレンダーに見立てて何かと類比する手法がある。元日に誕生した地球が今除夜の鐘を聞いているという設定だ。では、ホモサピエンスはこのカレンダーのどのあたりで誕生したのか? 大晦日の今日、午後115420秒に生まれた。今から540秒前のオギャーである。

ホモサピエンス。さて、これから先はどこに向かうのか?

投稿者:

アバター画像

proconcept

岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です