楽 (らく) と楽しみ

背伸びして生活したり仕事したりしていれば肩肘も気も張る。誰にもそんな時期があるだろう。しかし、気は――張るだけでなく――時々緩めないと疲れ果てる。己の分と能力をよくわきめておくのが肝要である。

堀口大學に『座右の銘』という短詩がある。

暮らしはぶんが大事です
気楽が何より薬です
そねむ心は自分より
以外のものは傷つけぬ

分相応に生きろなどと他人に言うと生意気だが、自分自身に言い聞かせるなら支障はない。分や能力の程度で生きていれば、周囲の事情や他人の存在につねに気を遣うこともなくなる。つまり、気楽になれる、力が抜ける。


気楽は「いい加減」とは一線を画す。無理することなく、どこかで「なるようにしかならない」と諦観してのんびり構えている様子だ。「気楽が何より薬です」と言われてあらためて「薬」の中の「楽」を確かめる。漢字で薬と書けば、その薬は元々漢方。漢方薬の原料は草の葉や根や皮がほとんど。だから「くさかんむり」。

この楽は「らく」であり、落ち着いてゆったりした気持ちのさまだ。気楽、安楽、極楽の楽である。病を治すばかりが薬ではない。うまく処方すれば、未病に働いて心身は楽になる。

楽はやがて余裕を生み、歓楽や快楽にも変化して感覚をたのしませてくれる。それは、身近なところでは音楽が与えてくれるような安らぎ、歓び、快さ。

先日のこと、知人から電話が入っていたのに気づかなかった。折り返した。
「すみません、間違ってかけました。元気にされてますか?」
「まあ、耐えているというところかな」
「暖かくなったら歌いに行きましょう」

なんで歌? とその時は思ったが、なるほど、音楽にはらくたのしみの薬効がある。歌うどころか、最近はあまり聴きもしていないことに気づかされた。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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