今どきの様々な事情

今年初めての出張が入った。八月の予定が人流抑制のために十月下旬に延期になった。久々の伊丹空港はかなりリニューアルされていて、要領を得るのに少々手間取った。行き先は高知龍馬空港。一年八カ月ぶりの高知。この前は冬装束、今回は背抜きのスーツ。連泊だった前回はキャリーケース、一泊の今回はトラベルリュック。一番の違いは、ビフォーコロナの前回はマスク無し、コロナの今回はマスク有り。

高知出張の最大の楽しみは魚食い。ビフォーコロナの昨年1月に訪ねた料理店はその年の秋に店を閉めた。地元で根強い人気がありいつも常連で賑わっていた。常連が誰かに伝えその誰かからいい店だと聞き、数年前から高知に行けば必ず足を運んでいた。出張族もリピーターになり、調べ上手な観光客も集まる渋い店。現地の新聞でも取り上げられ惜しまれながら消えた。

新型コロナ感染者数の多寡増減に一喜一憂し、緊急事態宣言とまん延防止等重点措置のスイッチのオンオフが繰り返された一年と八カ月。様々な事情が生まれ、日常の景色が濃淡様々に変化した。今年の秋になって、一部の景色が元に戻りつつある。しかし、まだまだ異変が続いて歓迎されない場面はあるし、別の一部では落ち着いたものの元には戻らず、新しいアフターのスタイルが定着し始めている。


宿泊したホテルは立地がいいのでここ数年定宿じょうやどにしている。フロントのチェックインはまるで海外渡航者向けの厳重な態勢だった。朝食会場はビュッフェスタイルではなく、数種類の定食から選ぶ方式に変わっていた。ドリンクはフリーだが、席を立って水、ジュース、コーヒーと取りに行くたびに簡易手袋を装着する。アルコール消毒した手を手袋で包むわけだが、面倒この上ない。

高知には十数年前から年に一、二度仕事で来ている。店じまいした料理店を知る前は、知人に老舗の割烹に何度か連れてきてもらっていた。その店に一人で行きカウンターの席に座ったのが七年前。今回は三人で訪れた。地元の名士が集まる店なのだが、その日の夜、ぼくたちの他に客はなかった。新鮮な魚貝を使った料理が売りだから、こんな状態では仕入れのやりくりも難しいに違いない。

あの七年前、チャンバラ貝とどろめ・・・をつまみ、ヒラメの刺身や鰹のたたきも注文して静かに飲んでいた。間に二席を置いて男性客が一人座った。「いつもの」と言い「今夜は何がいい?」と女将に聞くその人、常連に決まっている。いつもいいけど鰹が特にいいと女将がすすめ、紳士、間髪を入れず「刺身、皮付きで」と告げた。ダンディズムを感じさせるやりとりだった。

ずっと一つ覚えの鰹のたたきだったので、あの紳士が唸るように食った刺身をいつかぜひ、この店でと思っていた。七年越しの願いが叶い、皮付きの鰹の刺身にありついた。忘れることはないが、「皮付き鰹の刺身、史上最強の厚切り」と念のために脳内に記す。たたきをニンニクといっしょに頬張るのは毎度だが、刺身を頬張るのは初めての体験。今どき、世の中には様々な事情があるが、ぼくにとってその夜の事情は過去の場面とつながる特別な事情だったのである。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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