冬ごもらない暮らし

今住んでいる地域は都会度が高いので、手付かずの自然の風景に乏しい。乏しいが「まったくない」わけではない。よく目を凝らせば自然の断片を感じさせるような空間が所々にある。大阪の都心にいると「冷え冷えとして寒い」と嘆くことはめったになく、終日冬ごもることもない。冬ごもらない・・・・・・暮らしができる。

朝、部屋から西の空を眺める。窓越しだから窮屈で見通しにくい四角い視界である。建設ラッシュでタワーマンションが聳え立ち、空は年々狭くなっている。外に出ると視界が少し広がった。雲はマンションのはるか高くにある。その日に限って、流れ行くはずの雲が急いでいないように見えた。こっちの目線に付き合って留まっているようだった。

「雲をとどむ」という表現がある。流れてくる楽曲や歌声があまりにも美しいので、雲が聴き惚れてしまう。流れるのが当たり前の雲がしばしそこに留まるというのだ。雲にドビュッシーの『雲』を聴かせてみれば、はたして留まって耳を傾けるだろうか。


年末に父が他界し、今週末まで喪に服すことにしている。どなた様とも飲み食いはもちろん、雑談程度のお付き合いも控えてきた。かと言って、じっと自宅にこもり続けているわけではない。普通に仕事をしているし、休みの日には冬ごもりなどせずに1万歩、15千歩くらい街歩きをする。

川岸、公園、庭園、プロムナードなどは、一応わずかな自然と調和するように工夫されているように思う。緑の多い中之島公園やバラ園は近いのでよく行く。この時期、バラは一本も植えられていない。養生している芝生が青くなる頃にバラが一斉にここに移植される。バラの華やかな彩りもいいが、それぞれの花の色・形と名前の響きとの似合いをチェックするのもおもしろい。

花を愛でたら幹や枝にも目を配る。通りへ出て造形っぽい街路樹を眺める。何十年も街歩きして見慣れているはずなのに、これまで気づかなかった何かに気づく。と言うわけで、今年の1月、2月は例年に比べて寒いが、なるべく冬ごもらないで外に出る。自宅にいるよりは気づきも発見も多い。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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