ランチ処の現実と空想

🍽  或る中華料理店

この店では昼でも夜メニューが注文できるが、おすすめランチ定食はおおむね5種類。隣りのテーブルに小太りの中年男が座り、悩んだ末に「ラーメン/半チャーハンセット」を注文した。こちらに一瞥してぼくが食べている「上海焼きそば定食」と天秤にかけたようである。

「上海焼きそば定食はめったにメニューに載らない。食べるなら今日だ。ラーメン/半チャーハンなら明日でもいい」。男は一度はそう考えたに違いない。だが、「もし初めての上海焼きそばにがっかりしたらどうしよう。もう二度と立ち直れず、ここへ来なくなるかもしれない」と男は不安になった。こうして、リスクを避けるために常連はいつものランチという安全策を選んだのに違いない。なお、この店の半チャーハンは他店の普通のチャーハンとほぼ同じ量である。男の小太りの原因の一つだと思われる。


🍽 或るスリランカ料理店

アンブラ、ダルバート、ミールス、タ―リーなど、インド/ネパール/スリランカ料理の違いが認識でき、これにビリヤニも加えて、メニューのローテーションが組めるようになった。十数店を巡った結果、行きつけの店も45店に絞れた。メニューと店のマトリックス表がかなり充実してきた。しかし、上には上がいる。カレー通が「碩学せきがく」に至るまでに費やす金と流す汗と試行錯誤のエネルギーの総量は、ランチタイムにうまいカレーを食べたいという程度のぼくの熱量をはるかに凌駕する。

老舗のスリランカカレーの店で見た二十代半ばの男を思い出す。当時、ぼくはアンブラ、ダルバート、ミールス、タ―リーの違いがよくわかっていなかった。男は席に着く前に厨房に向かって「アンブラ」と告げた。つぶやくような小声とスムーズな振る舞いが「通」を感じさせた。テーブルに運ばれたアンブラを横目で見た。まさか、こう来るとは……想像を超えていた。人が食べる料理がおいしそうに見えたら後日必ず注文する。それがぼくの流儀。

アンブラは三度景色を変える。一、バナナの皮に包まれて出てくるアンブラ。二、皮を開けると具材が整然と並ぶアンブラ。そして三、よく混ぜ合わされて美味なるカオスに化けるアンブラだ。どこの誰だか知らないが、朝昼晩にカレーを食べ続けてきた結果、あの男が出来上がったに違いない。店側を緊張させる雰囲気を漂わせる客だった。おそらく昨日のランチもアンブラ、そして今日のランチもアンブラだったのだろう。〈写真〉バナナの皮に包まれて出てくるアンブラ。初めて注文した者は皮を開けてそこに広がっている具の景色に目を見張る。


🍽 蕎麦屋

ざるそばでもかけそばでもトッピングし放題。特にワカメが無料というのがいい。但し、この店は重大な問題を抱えている。券売機がシニアにやさしくないのだ。たとえば、「ざるそば」ボタンを押し、数秒間戸惑ってから「大盛」ボタンを押すと、後者の分は支払処理されず発券もされない。両方を押したという情報はカウンター内にいる亭主には伝わっているらしく、「ざるそば」の券を出すと「お宅の大盛分の料金はここでもらうよ」と亭主が言う。操作に手間取って二つ目のボタンを押すのが遅くなると、券売機は二つ目のオーダーを受け付けないのだ。券売機トラブルがよく起こるこの店をぼくは「みずほ蕎麦」と呼んでいる。

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proconcept

岡野勝志(おかのかつし) 1951年大阪生まれ 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター 岡野塾主宰 ヒューマンスキルをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。 マーケティング、コミュニケーションにまつわる企業や人

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