並ぶ、待つ

大都会特有とは言わないが、「並び、待つ」という光景は大都会でよく見られる日常だ。人が大勢いて集合的なイベントが増えれば、並ぶ目的も待つ理由もTPOに応じておびただしく派生する。

人々は一定の秩序を保ちながら指定された場所に位置して並ぶ。並ぶという動作の内には整然とした配列が含まれている。いつまで並ぶかと言えば、順番が回ってきたり何かが現れたりするまでである。つまり、並んでいる間は待っているのである。待つとは時間を過ごすことで、時間を過ごせるのは予期することがあるからだ。

都会生活者としていろいろと便宜を享受している。そのためにはある程度忍耐が求められる。都会度が高くなるほど人々は並び、そして待たねばならないのである。手持ちぶさたの時間も長くなるが、昨今はスマホをいじって時間をやり過ごせばいいので、より長い時間待ちができる人たちが増えたに違いない。


オフィスから数分の所を東から西へ川が流れている。対岸に造幣局があり、全国的にも知られた「桜の通り抜け」というイベントが4月中旬の一週間開催される。写真は2017年に実施された時のもので、ここから造幣局の門までまだ500メートル以上あるのにこんな様子なのだ。人々は列を成して牛歩状態で少しずつ入場門へ向かう。

昨年も一昨年もコロナ禍で中止になった。このイベントに生きがいを見出している中高年たちは悔しがった。今年は3年ぶりに開催された。インターネットでの事前受付のみで、人数も大幅に制限して実施された。並びもせず待ちもせずの通り抜けに、逆にがっかりしたのではないか。

出張のたびに思うが、東京では人々は秩序正しく並び忍耐強く順番を待つ。福袋を求めるデパートの前で、ラーメン店の前で、通勤電車の前で。一極集中の東京では生きる上で並ばねばならず待たねばならない。都会であるから、当然大阪でも並び待つ場面は多い。しかし、東京を「メガ盛り」とすれば大阪は「大盛り」程度である。

中年男が愛人のアパートにやって来た。女性が言った、「ちょっと待ってね」。男は笑みを浮かべて言った、「待たせなければならない。しかし、待たせすぎてはいけない」。高校生の頃、テレビで観たくだらない外国映画だが、このワンシーンとセリフだけが記憶に残っている。

ほどよい時間なら並べるという、そんな待ちがいのあることが少なくなった。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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