語句の断章(35)演繹と帰納

〈演繹〉と〈帰納〉は決してやさしくない哲学用語である。研修で何度か使っているが、中心テーマになったことはなく、周縁的にさらりと使うだけで深く掘り下げていない。質問を受けたこともない。ぼんやりとわかっている、辞書を調べてもあまりピンとこない、わかっているつもりだが「意味は?」と聞かれたら説明できない……演繹と帰納に対してはおおむねこの程度の距離感の人が多いのではないか。

手元の『新明解』によると、演繹とは「一般的な原理から、論理の手続きを踏んで個々の事実や命題を推論すること」、帰納とは「個々の特殊な事柄から一般的原理や法則を導き出すこと(方法)」。この説明を読んで、「ガッテン!」と膝を打つ人はたぶんいない。

ぼくの場合、だいたいの意味がわかるきっかけになったのは英語だった。演繹と帰納はそれぞれ英語で“deduction”“induction”という。使った英英辞典は新明解以上に明解で、演繹は“from general to special”、帰納は“from special to general”と定義されていた。一般から特殊を導くのが演繹、特殊から一般を導くのが帰納。枝葉が省かれてわかりやすかった。

たとえば何かについて話す時、総論から始めて具体的な事柄を紹介するのが演繹的話法。他方、一つまたは複数の具体的な事例を切り口にして一般的な考え方で結ぶのが帰納的話法。演繹と帰納のことを知らなくても、現代人にはこの二つの思考パターンやまとめ方が刷り込まれている。一つの原理をいくつかに分析するか、複数の情報を総合するかのいずれかなのである。


演繹を図で表わすと上記の通り。一つの大きな概念を具体的なコンテンツに小分けする。「横綱を目指す力士は〈心、技、体〉を鍛えなければならない」や「日本の通貨には、一円、五円、十円、百円、五百円の硬貨と、千円札、二千円札、五千円札、一万円札の紙幣がある」。トップダウンの構造になる。


上図は帰納の構造を表したものである。演繹の図とは矢印の方向が逆になっている。小さな情報のいくつかを一括りにして上位の概念にまとめる構成だ。たとえば、「Aさんは時々遅刻する、アポの時間を忘れる、新幹線に乗り間違える。時間にルーズなAさんは社会人失格」とか、「香川、徳島、愛媛、高知の4県を四国という」など。ボトムアップの構造をとる。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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