見極めの作法

行政の事業やイベントの審査をこの10手伝ってきた。毎年4つか5つの案件を見てきたので、かなりの数になる。コンペやプロポーザル方式で専門事業者の企画提案内容を評価し、複数の審査員で審議して最優秀事業者を選ぶ。審査員は3人~5人。数社がエントリーしてくるので、満場一致で決まることはめったにない。

審査と言えば、ディベート大会には40年以上関わってきた。練習も含めると、たぶん千に近い試合を審査してきたはず。ディベート審査では、3名、5名、7名など、奇数の審査員が一人1票を肯定側か否定側に投じる(引き分け判定はない)。拮抗しても必ずどちらかの票が他方を上回る。

行政の選定会議は投票方式ではなく、個々の事業者を採点して審査員の点数を合計する。合計点の多い事業者が最優秀になる。たとえば、事業者A社、B社、C社を4人の審査員が審査。3人の審査員の採点でA社が1位になったとしても、残る一人の審査員が大差の点数でC社をトップ評価したら、合計点でC社がA社を上回ることがある。実際、そんなことが二度あった。最高点と最低点をつけた審査員の点数を除く「上下カット方式」がフェアだが、あまり採用されない。


最初の事業者のプレゼンテーションはその内容だけを絶対評価する(フィギュアスケートやアーティスティックスイミングの最初の競技者に対する採点と同じ)。しかし、二番目以降は、たとえ絶対評価のつもりで採点しても、先に終えたプレゼンテーションと比較しながらの評価にならざるをえない。天秤にかけながら優劣判断をすることになる。

ある一つの物事だけが対象なら、その物事の本質や出来栄えなどを評価して最終的に「イエスかノー」の判定を下す。他方、二つの物事の評価となると必然的に比較をして優劣を決めることになる。こう書けば簡単そうに見えるが、優劣の判断には感覚や経験が含まれる。また、「鼎立ていりつ」という、三者対立などもあって評価は一筋縄ではいかない。

事業者選定や議論の勝敗に関わる審査は、利害関係を抜きにしたロールプレイ的ミッションである。しかし、仕事や生活上の人柄と所業の見極めや大小様々な意思決定は生身の自分事だ。得失を優先するあまり善悪を棚上げする者がいるし、「美しいと思うから美しいのだ」と短絡的な論法で決めつける者もいる。何を根底に置いて評価すればいいのか、見極めの作法は定まりにくい。しかし、少なくとも、得失の判断を真偽・善悪・幸不幸の見極めよりも優先させてはいけない。自然界に得失はない。得失は人の邪心にほかならないのである。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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