(遺伝子組換えでない)

専門的なことまで立ち入ってよく調べたわけではない。経緯も知らなければ、なぜこういう表現が使われるのかもわからない。だが、ここ数年間、ぼくの中でことばの違和感ナンバーワンに輝いているのが、括弧付きの「(遺伝子組換えでない)」という用語であり用法である。

今朝も食べたコーンフレーク。その箱に「とうもろこし(遺伝子組換えでない)」と書かれている。他にも「大豆(遺伝子組換えでない)」という食品表示も目につく。そもそも、日本語においては修飾語が主体となることばの前に置かれることがほとんどだ。にもかかわらず、後ろから前を修飾する用法にぎこちなさを感じてしまう。ぼくたちは赤ワインと言う。「赤いワイン」と修飾語が前に来る。フランス語では“vin rouge”で、「ワイン赤」と言っている。イタリアでも“vino rosso”と「赤い」が後に置かれる。

「遺伝子組換えでない」などのしっくりこない表現に出くわすと、英語の直訳だろうとおおよその見当がつく。これは“not genetically modified”に対応しているのか(直訳すると「遺伝子的に変異されていない」という意味)。毎朝、コーンフレークの表示を目にしているのでだいぶ慣れてきたはずなのに、未だに「とうもろこし(遺伝子組換えでない)」が日本語のように思えてこない。

かと言って、「遺伝子組換えでないとうもろこし」というのはいかにも冗長だ。括弧の中に入れているのは「但し書き」のつもりだろうから、但し書きを修飾語としてアタマに置くとニュアンスが変わってしまう。「中国から輸入したのではないウナギ」はいかにも変だし、この表示が「国内産」を意味するものでもない。「ウナギ(中国産でない)」と強調するのなら、いっそ「ウナギ(国内産である)」と肯定的に表現するほうがいいだろう。


とうもろこしや大豆の表示に関して言えば、最大関心事が「遺伝子組換えの有無」であるのに違いない。その義務づけは、ぼくにはよくわからない安全性基準などによるものなのだろう。「とうもろこし(国内産でない、大粒でない、家畜用でない)」などという説明のほうがずっと親近感が持てるのではないか。毎朝毎朝「遺伝子組換えでない」を目にするたびに、生物の実験教室で朝食しているような気分になる。

なんだか括弧付きの但し書きがパロディのように思えてきた。たとえばプロジェクトに関わったスタッフを企画書の表紙に列挙するとき、「凹川凸男(見習いではない)」とか「AB子(外注先スタッフでない)」などと但し書きしておけば、安心してもらえるだろうか。あるいは、コワモテの社員を得意先に紹介するとき、「弊社の新入社員です。ヤクザではありません」としておけば、末永く可愛がってもらえるだろうか。

コーンフレークの話に戻る。「とうもろこし*」と表示しておいて、欄外注釈で「*遺伝子を組換えた原料を使用していません」とすればいいような気がする。「遺伝子組換えでない」という、文章でも形容詞でもない中途半端な但し書きをやめて、しっかりとした文章で説明するのがいい。

以上が「ぼくの意見(専門的観点からではない)」。おっと、この用法、なかなか使い勝手がいいぞ。   

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

「(遺伝子組換えでない)」への3件のフィードバック

  1. そう、そう、その通り!これは気持ち悪い言葉の筆頭です。が、この但し書きは消費者に説明しているのでなく、書いておいた方が良さそうだから書いてあるので、書いている方はこんな事はどうでも良いのかもしれません。消費者は気持ち悪い言葉でも、豆腐や味噌を買う時にしっかりと確かめていますが・・。同じように家庭や職場にあるちょっとした備品についている取扱説明書も、必要以上にあり得ないような状況設定をして、気をつけろと言っています。目覚まし時計を50度以上になるところに置いたり、温泉ガスの発生する場所に置いて、早く壊れたと難癖をつけてくる輩に、使い方が間違っている、とも言えない国にいつからなってしまったのでしょう。何でも人に責任を押しつける日本人が多くなりました。 転がったリップクリームのキャップもこの辺にあるのだから探そうよ。うっかりと人前でばらまいてしまった小銭もきちんと拾おうよ。それから気になるのが、グルメレポーターという人が、例えば市場で、デパ地下で、一口だけ味見して残った物はどうしてるの?そんな些細な事が気になって仕方がないのです(話が飛んでしまってまとまらない~)

  2. 女子57歳さん、前回のコメントに続き、身に余る共感をいただきありがとうございます。ことばや習慣に関するぼくの批評は、半分本気で半分ジョークなのですが、このニュアンスをわかってくれる人だけが読者なのかもしれません。ぼくの批評はつまるところ自分自身への警鐘です。

  3. 昔は白亜館とも新聞に書かれた,The White House に,昔は黒人とも書かれたアフリカ系の大統領が誕生しましたね。まだ,「入居」していませんが。修飾語の位置には大変面白い問題があります。後ろから形容するフランス語の新聞でホワイトハウスは,La Maison Blanche と「館,白い」になりますね。UFO(Unidentified Flying Object(s))も,フランス語でOVNI(Objet Volant Non Identifie)とひっくり返りますね。この辺,主語述語の語順と修飾関係はグリーンバーグの統語的言語類型論に任せておきます。
    「名詞(~でない)」という言葉が著しく「気色悪い」のは,突然,「有標なもの」を突きつけられるからのように思います。自己紹介で「初めまして,内地人じゃない宮です」とやると,ドッキリされるわけで,修飾を前に持ってきても否定の「~でない」より,まず肯定の「国内産」や「天然」を使え!という気がします。

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