イタリア紀行17 「世界遺産の塔の街」

サン・ジミニャーノⅠ

以前、NHK衛星放送がイタリア各地の世界遺産をシリーズで生中継していた。季節がいつだったのか覚えていないが、その番組を見たかぎりサン・ジミニャーノは賑わっていた。街の入口になっているサン・ジョヴァンニ門をくぐると同名の通りが街の中心チステルナ広場へ延びるが、大勢の観光客がテレビの画面に映し出されていた。

サン・ジミニャーノはトスカーナ州に位置する、辺鄙な街である。すでに紹介したシエナ県に属している。フィレンツェからバスで行くが、直行便がない。途中ポッジボンシという場所でで別のバスに乗り換える。バスの連絡が悪いと30分ほど待たされるので、フィレンツェからだと都合2時間近くかかることもあるようだ。

それにしても、この閑散とした世界遺産、いったいどうなっているのだろう? NHKで見たのと、いま目の当たりにしている光景には天地ほどの差がある。土産店で尋ねたところ、2月の下旬はほとんど観光客は来ないらしい。ツアーコースでシエナのついでに立ち寄るくらいなので、滞在時間は1時間かそこらとのことだ。あまりにも暇そうだし親切なオーナーだったので、置き物を一つ買った。街の模型である。そこには、お粗末なしつらえながら塔も立っている。

この街は小さい。南北が1キロメートルで東西500メートル、住民は8000人にも満たない。日本なら過疎の村である。だが、今も品質のよいサフランで有名なサン・ジミニャーノは、サフラン取引で富を得て、金持ちたちは競って塔を建てた。まさしくステータスシンボルだったのだ。かつて72本も建っていた塔は、今では15本。その15本のお陰で世界から注目される遺産になっている。

これまでの紀行文で「中世の面影を残す」という表現を何度か使ったが、サン・ジミニャーノには使えない。「面影」ではなく「そのまま」だからだ。123世紀の中世の騎士映画を撮影するためにこしらえられたセットではないかと錯覚してしまう。ここは「今に生きる中世そのもの」である。人気のない季節が中世の重厚で硬質な印象を際立たせた。

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サン・ジョヴァンニ門から街に入る。
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門をくぐり振り返るとこんな光景。
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サン・ジョヴァンニ門から広場までの道すがら。曲がりくねる通り、建物の間から一つ目の塔が見えてきた。
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さらに通りをくねっていくと、別の形状をした塔が現れる。
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通りが交差する街角に出る。
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チステルナ広場。“Cisterna”とは「井戸」 のこと。
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チステルナ広場の井戸。取り囲む建物や広場に敷き詰められた煉瓦は中世の色そのままだ。この井戸が水汲み以外の用途で使われたことは想像に難くない。
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博物館の塔から見る対面の塔。
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サン・ジミニャーノのほぼ全貌。この規模の街にかつて72本の塔が建っていたとは驚きだ。さぞかし圧巻だったに違いない。現在では15本の塔すべてを見渡せる場所は空以外にはない。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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