ツケの大きい先送り

今夜、今から3時間後にマーケティングについて2時間弱の講演をおこなう。この内容についてすでに三週間前に資料を主催者側に送り、準備万端であった。ところが、講演で使用するパワーポイントを今朝チェックしていてふと思った―あまり早く準備するのも考えものだと。

全体の流れや構成は全部アタマに入っている(自作自演するのだから当たり前だ)。しかし、集中して編み出したアイデアやディテールについては、別にダメだなどとは思わないが、時間の経過にともなってピンと来ない箇所があったりする。「これ、何を言おうとしたのかなあ?」という、瞬間の戸惑いだ。それも無理はないと自己弁護しておく。話であれ書いたものであれ、話して書いた瞬間から賞味期限が迫り、やがて切れていくのだから。

しかし、効率という点からすれば、講演なら一週間くらい前に準備してアタマに入れておくのが、ちょうどいい加減なのかもしれない。そんなことを午前中につらつらと考えていた。


「先手必勝」や「善は急げ」や「機先を制する」などという言い伝えと同時に、「急がば回れ」や「急いては事を仕損じる」などの価値が対立する諺や格言が存在する。いずれにも真理ありと先人は教え諭してきたのだろうが、凡人にとってはどちらかにして欲しいものである。つまり、急ぐのがいいのかゆっくりがいいのか、あるいは、早めがいいのか遅めがいいのか―ズバッと結論を下してもらったほうがありがたい。すべての諺を集大成すると、堂々たる「優柔不断集」になってしまう。

だが、ぼくは自分なりに決めている。自分一人ならゆっくり、他人がからむならお急ぎである。講演は他人がからむ、資料は他人に配付する。だから早めに準備しておくのが正しい。二度手間になってもかまわない。できるときにしておくのがいい。善は急げとばかりに、さっき一ヵ月後の研修レジュメをすでに書き上げスタンバイさせた。


膨大な企画書を何10部もコピーしてプレゼンテーションしなければならない。そんな企画書が提案当日の午前にやっと出来上がる。プレゼンテーションはお昼一番だ。一台しかない複写機がフル稼働する。ランチをパスしてホッチキス留めして一目散に得意先に向かう。何とか三十分後に到着し、無事に会合に間に合った。しかし……

企画書を手にした部長が一言。「この企画書、まだ温かいね」。そう、鋭くも的確な皮肉である。「この企画はたぶん熟成していない。したがって、検証不十分のまま編集されたのだろう」と暗に示唆するコメントであった。ご名答! である。ぼくの体験ではない。若い頃に目撃した、ウソのようなホントの一件である(実際にコピー用紙は温かかったのだ)。仕事の先送りは、熟成を遅らせることであり、ひいては検証不能状態を招くことなのだ。

グズだから怠け者だから先送りするのだろう。しかし、生真面目な人間であっても、ついつい先送りを容認して習慣化していくと、グズになり怠け者になっていくのである。ぼくは、その両方のパターンを知っている。その二人とも働き盛りなのに、ツケの返済に日々追われて創造的な先手必勝の仕事に手が届かない。 

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proconcept

岡野勝志(おかのかつし) 1951年大阪生まれ 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター 岡野塾主宰 ヒューマンスキルをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。 マーケティング、コミュニケーションにまつわる企業や人

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