旅程点描

リヨン~シャンベリー~トリノ

20136月に書いた粗っぽい旅程表がある。一年後、同じ旅程に手を加えた。この旅程を思いついた時のことをよく覚えている。旅に対するある種のマンネリズムが消えたような気がして新鮮だった。そして今、またそのことを思い出し、机上で、脳内で、旅を組み立てている。それは「パリ~リヨン~シャンベリー~トリノ」の鉄道の旅である。

関空からエールフランスでパリに行く。パリに数日間滞在する。知っている通りやメトロやカフェに親しみ、新しい発見を楽しむ。荷物をまとめてアパートを後にし、パリ・リヨン駅からローヌのリヨンへ向かう。リヨンは人口165万人、パリに次ぐフランス第二の都市だ。パリから高速列車TGVテジェヴェでおよそ2時間。見所の多い街だから3泊は必要だろう。

パリは近代と現代を代表する都市だが、リヨンには古代や中世の足跡がある。ローマ帝国の時代から交易拠点として様々な物資がここに集められた。絹織物で名高いが、心惹かれるのは絹ではなく、リヨンのもう一つの顔「美食の街」のほうだ。

パリからリヨンに入ってくるTGVはリヨン・ペラーシュ駅に着く。そこから数百メートル北へ歩くとベルクール広場に至る。そこには『星の王子さま』でおなじみサンテジュグベリの像が建つ。レストランで賑わう地区も近いから、ホテルはその辺りが便利だ。翌日は広場のメトロ駅からソーヌ川の対岸のヴィユー・リヨン駅へ。そこからケーブルカーで上がればフルヴィエールの丘。展望台からは旧市街地、二つの川、新市街地が一望できるという。眺望を楽しんだら旧市街へ。ここはイタリアルネサンス様式の建築が目白押しである。


リヨンの後はアルプスで国境を越えて未踏の地トリノへ。かつてのサヴォイア公国の中心である。そこで数日間過ごす。街の顔サン・カルロ広場近くにまずまずのホテルを見つけているが、場合によってはアパートという手もある。メルカートへ買い出しに行って朝と昼は自炊。夜は出歩いてサヴォイア料理を堪能する。トリノはフレンチ風カフェが有名だ。そこでビチェリンを飲もう。コーヒーとチョコレートをバランスよく混ぜ合わせた飲み物である。トリノと言えばピエモンテ、ピエモンテと言えばワインの王様バローロである。バローロと相性のいい前菜には事欠かない。一番の楽しみは名物の手焼きグリッシーニ。折れやすいから土産には向かない。

リヨンからトリノへは4時間か5時間……これでおしまいになりかけた。しかし、時刻表から地図に目を転じたら、シャンベリーという地名に気づく。サヴォワ県の都市である。このサヴォワとトリノのサヴォイアの起源が同じなのだ。フランス語とイタリア語読みの違い。かつてサヴォイア家は、トリノのあるピエモンテとシャンベリー一帯と隣接するスイスの一部を支配していた。シャンベリーに衝動的な魅力を覚える。何も知らないのがいいかもしれない。アルプスの山あいの街で一晩を過ごすのも悪くない。

トリノの後は空路。パリはシャルル・ド・ゴール空港経由で関空へと戻ってくる。およそ半月の旅程である。今月に入ってこの旅程をもう一度なぞり、いろいろと下調べもした。机上であり脳内の旅でありながら、少しずつ現地に迫っているのがわかる。空気が匂っている。通りを歩き街角に佇んでいる。メニューを眺め料理を口に運んでいる。建物の中にいるし、鉄道駅で切符を買っているし、車窓から景色を眺めている。疑似体験以上と言えるかもしれない。だが、だいたいこんなふうに旅程をスケッチして楽しんだ時ほど、リアルな旅は遠ざかるものである。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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