♪ 想い出のサンフランシスコ

あっという間に過ぎた。サンフランシスコの坂をケーブルカーで上り下りしながら、I left my heart in San Francisco……と口ずさんでから一ヵ月が過ぎた。写真の整理をしていたら、ふとこのメロディが脳裏をよぎった。フランク・シナトラのCDを取り出して聴こうと思ったら、この曲が入っていない。そんなバカな……。もしかしてと、トニー・ベネットのCDジャケットを見たら、ちゃんと入っていた。一曲目だ。正確に言えば、こちらのほうが本家ではある。

 

念のために調べてみたら、YouTubeでシナトラバージョンも聴けた。ついでに他にも探してみたら、歌詞と動画をシンクロさせているのもあっておもしろかった。少々こじつけっぽい箇所もあるが、許容範囲である。


下記に歌詞を掲載してみたが、最初の四行は歌っているようで歌っていないセリフ。実はこのセリフのようなイントロがあるからこそ、 I left my heart 以下に哀愁が漂う。字面に影響されぬよう意味を汲むが、なかなかこなれた日本語にはなってくれない。だが、とりあえず試訳してみようと思った。

The loveliness of Paris seems somehow sadly gay
The glory that was Rome is of another day
I’ve been terribly alone and forgotten in Manhattan
I’m going’ home to my city by the bay.

パリの魅力はなぜか悲しげなまでに華やかで、

ローマがほしいままにした輝きも過ぎた日々。

孤独にさいなまれたマンハッタンを後にして、

いまわたしは湾のある生まれ故郷の街へ帰る。


一行目、二行目、四行目それぞれの最後の単語は、gay(ゲイ)、day(デイ)、bay(ベイ)と韻を踏んでいる。こう口ずさんでから耳に親しいあのメロディーで歌が始まる。引き続き日本語を付けてみた。

 
I left my heart in San Francisco
High on a hill it calls to me

心残りだったサンフランシスコが

丘の上からわたしに呼びかけてくる。

 

To be where little cable cars
Climb halfway to the stars

その街では小さなケーブルカーが

星へと向かって坂を登りつめる。

The morning fog may chill the air
I don’t care

朝霧で空気が凍えても苦にならない。

 

My love waits there in San Francisco
Above the blue and windy sea

愛しい人が待つサンフランシスコ。

風が吹きさらす青い海の上。

 

When I come home to you San Francisco
Your golden sun will shine for me.

故郷のサンフランシスコに帰るわたしに

黄金色の太陽が輝いてくれるだろう。


最後の二行では、サンフランシスコが「あなた」と擬人化されている。「サンフランシスコというあなた」、「あなたの太陽」になっている。

☆     ☆     ☆


ここまで書いて、締めのことばが継げない。PCの電源を落として夕食を済ませ、9時頃自宅近くを散歩することにした。先週の土曜日のことである。いつも前を通りながら、一度も入ったことのないバーがビルの2階にある。行って見た。オーナーは日本人ではない(後の会話でわかったことだが、スパニッシュ系アメリカ人でニューヨーク出身と言った)。

ギネスビールを飲みナッツをつまみながら、「つい先月までサンフランシスコとロサンゼルスにいた」という話からアメリカ談義に及び、やがて彼が日本で店を始めた経緯へと会話が弾んだ。「故郷での疎外感がつらかった。だから日本へ来た」と彼はつぶやいた。それを聞いて、ぼくは夕方に訳していた歌詞の冒頭を思い出してこう言った、「“I’ve been terribly alone and forgotten in Manhattan”という感じかな?」 彼はうなずき、人懐こく笑った。 

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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