美術とカフェと街角

今年の32日のパリは格別な日だった。正確に言うと、そんな格別な日は毎月一回やってくる。もともと常時無料の美術館があちこちにあるのだが、加えて、毎月第一日曜日は有名美術館や博物館の多くが無料なのである。美術と歴史のファンにはありがたいサービスだ。

200610月には無料でルーヴル美術館に入場した。奇しくも引退した名馬ディープインパクトがロンシャン競馬場の凱旋門賞に出走した日である。

今年は午前にピカソ美術館、夕方の閉館前にオランジュリー美術館と決めた。ピカソのほうは開館前の930分に並ぶ。ルーヴルとは違い、その時間なら列は10数人程度だ。オランジュリーは一時間近く待たされた。みんな同じ思惑だったのだろうか。モネの睡蓮に人が集まるが、ここはそれ以外にもルノワール、セザンヌ、ユトリロ、モディリアニ、ゴーギャンなどの作品が居並ぶ。日本なら、これだけで十や二十の美術館ができてしまうだろう。

ピカソ美術館の後に予定外だったカルナヴァレ博物館へ。ここは年中無料の歴史資料館だが、もともとは貴族の住んでいた館。浅田次郎『王妃の館』のテーマになったヴォージュ広場は、ここから東へ200メートルのところにある。


閑話休題。長い前置きになってしまった。今日はパリ美術案内ではなく、粋なカフェの話。

昨日も紹介したが、ぼくはエスプレッソびいきだ。「苦くて濃くて少量」をめぐって好き嫌いが分かれる。自宅で淹れるエスプレッソも会社近くの店で飲むエスプレッソもおいしい。それでもやっぱり美術鑑賞の後のパリのエスプレッソは格別な気がする。

 フランスではcafé”と綴り「キャフェ」と発音する。イタリア語では“caffè”となり、fが一つ増えて「カッフェ」と音が変わる。見落としがちだが、eのアクセントの向きも違う。こんな薀蓄はさておき、予定外で訪れたカルナヴァレ博物館近くのカフェの佇まいが気に入った。

ピカソ美術館近くのバール.JPGのサムネール画像

自然の緑が織り成す色合いは美しいが、人工的な緑色のコーディネーションで感嘆する場面にはめったに出合わない。このカフェの緑は抑制がきいていた。何よりも「こちらでお召し上がりですか?」「お砂糖は一つでよろしいですか?」などと聞いてこない。ここで注文したのは、言うまでもない、エスプレッソである。店内でも飲める。しかし、少し肌寒いながらも屋外のテーブルに座ることにした。目の前は博物館の裏庭だ。

P1010749.JPGのサムネール画像のサムネール画像

グラスに入って運ばれてきた。パリのエスプレッソはイタリアのものより量は多く、ややマイルドだ。めったにないが、このカフェでは水も出してくれた。わが国のお店には、注文から出来上がりに至るまでのつまらぬ質問などやめて、時間と空間と芳醇な味わいを提供するカフェ文化を研究してもらいたい。そっとしておいてほしい珈琲党の願いである。

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proconcept

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岡野勝志(おかのかつし) 1951年大阪生まれ 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター 岡野塾主宰 ヒューマンスキルをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。 マーケティング、コミュニケーションにまつわる企業や人

「美術とカフェと街角」への2件のフィードバック

  1.  渋い深緑色でコーディネートされたカフェの写真に、思わずコメントボタンをポチッてしまいました。日本で営業中の数あるカフェ・チェーンの中で、一番のオキニは「タリーズ」。理由は深緑色と煉瓦色(とTULLY’sの書体)が絶妙にブレンドされたロゴマーク。まあ、単なるイメージ野郎ってだけなんですが、どうやら深緑色に弱い体質らしいです<笑>
     スタバ、タリーズ、シアトルズベストというシアトル発祥の3大カフェの中では、タリーズの味は案外個性が弱いんです。それでも贔屓したくなるのは、アンチ・巨人スタバの気持ちと、日本のタリーズが松田公太という三和銀行(!)出身の兄ちゃんが個人でアメリカの創始者にアタックし続け、日本での営業権を勝ち取ったというサクセスストーリー(もちろんちょっぴり涙あり)を知っているからでしょう。
     その松田氏も経営から外れ、伊藤園の軍門に下ってしまった日本のタリーズ。コーヒー好きの友人と「まあ見てなよ、そのうちコンビニ用チルド製品の『お縲怩「、カフェラテ』が発売されるから」と話し合っています。

  2. 自宅で食べるおにぎりよりも、川岸で流れを見、小鳥のさえずりを聞きながら口に運ぶおにぎりのほうがうまい。空気と小景も一緒に賞味しているからでしょう。シアトルですするタリーズは日本のものより染み入ってくるに違いない。創業1800年代というようなパリのカフェになると、そこに文化と歴史と芸術が上乗せされるからたまりません。これ、「オーベイカ!?」と揶揄される西洋かぶれとはまったく無縁の話。ウィーンで堪能した”Melange”は名物のミルクコーヒーだが、カプチーノ・カフェラテ系でこれに匹敵する一杯には残念ながら日本では出合っていない。

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