考えることと考えないこと

すでにゴールデンウィーク真っ只中の人たちもいるが、世間一般的には明日からの5日間が大型連休になるのだろう。この時期と秋のそれぞれに5連休を設けようと政府が休日分散化案(あるいは地域別連休案)を練っているのはご承知の通り。スムーズにいけば、2012年度から実施する意向のようである。

ハイシーズンゆえに割高になる旅行費用、それに観光地集中による交通渋滞への対策らしい。観光庁長官によれば、「観光市場の拡大のみならず、国民が心豊かに暮らすための生活の質の変化」(毎日新聞)を睨んでいるそうだ。余計な世話を焼くものである。「生活の質の変化」などは個人が日頃から心掛けるべきであって、政府の政策や環境整備などとは直接的につながるものではない。長蛇の列に並ぶのも渋滞に巻き込まれるのも、絶対に嫌なら避けることができる。そういう状況を覚悟しながらも、(自宅でのんびりせずに)人気観光地へと出向くのは個人の自由裁量である。

閑古鳥の啼く観光地と長蛇の列を成す観光地の格差は休日とは無関係に存在する。分散化しようが地域別にしようが、人気スポットは変わらないから、どんな休日であっても混む場所は混む。もし混まないときに行きたいのであれば、平日に休暇を取って行くのがよい。そう、最上の休暇は個人もしくは家族にカスタマイズされた休暇にほかならない。ところが、政府はこう主張する、「有休取得と声を上げても進まない」と。ところが、「地域分散化によって休暇への意識を高め、これにより有給休暇を取得する動機になりうる」とも言う。ほら、結局有休取得に答えが落ち着くではないか。国の休暇案を動機にするまでもなく、個人が内なる動機にさっさと火をつければ、個性的で「心豊かな」休暇への第一歩を踏み出せばいいのだ。自分の生き方くらい自分で設計すべきではないか。


いかにも彼らは考えているようだが、大企業サラリーマンと公務員の視点に偏っていて、生活と仕事の関係や休暇の本質についてはほとんど熟考できていない。人気観光地は年中割高なのだし、人で混み合っている。休暇を分散化し地域別にしても混雑は緩和しない、いや、そうすればますます集中する可能性だってあるのだ。職場に気遣って有給休暇をまともに取れないような人間が、国にアレンジされた休暇を楽しめるはずもない。繰り返すが、最良の休暇は誰にも気兼ねなく、自分の意思で選択し愉しむ休暇である。昨日オープンしたクリスピードーナツ心斎橋店で最大6時間並ぶのも自由、見向きしないのも自由である。

『考えることと考えないこと』というタイトルでぼくが明らかにしたいのは、考えてわかることと考えないからわからないことの対比、そして考えてもわからないことと考えなくてもわかることの対比である。各界の意見に真摯に耳を傾け幅広くヒアリングを重ねてわかることもあれば、そうすればするほどわからなくなることもあるのだ。ぼくは仕事柄「よく考えること」を鼓舞するのだが、あまりにも純文学的に説くのは誤解を生むのではないかと最近反省している。

「考える」という行為は「考えない」という状態とセットにしなければならない。「よく考えよ」という教えを額面通りに受け取ってもらっては困るのである。「考えない」あるいは「考えなくてもいい」があるからこそ、「考える」ことの意味や出番があるのだ。ちょうど「息を吐け」の文脈に「息を吸え」が暗黙のうちに包含されているように。考えるには、詮無いことを考えない、あるいは考えても仕方のないことを考えないという相反状態がなければならない。国民の心豊かなライフスタイルについて考えに考え抜いた結果が休日の分散化もしくは地域別休日とは、思考エネルギーの注ぐべき方向違いと言わざるをえない。  

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岡野勝志(おかのかつし) 1951年大阪生まれ 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター 岡野塾主宰 ヒューマンスキルをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。 マーケティング、コミュニケーションにまつわる企業や人

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