GWの街歩き

う何十年もGW中に遠出していない。ゴールデンウィークという和製英語が気に入らないからではなく、わざわざこの期間中に行ってみたい場所がないという理由。混雑も長蛇の列も歓迎しない。人影まばらな街中を当てもなく歩くほうがよほどいい、と考えている。歩き慣れた道すがらに新しい発見があって、近場の街歩きもまんざらでもない。この時代、自分のペースを貫ける機会は貴重である。御堂筋を大阪版シャンゼリゼ通り、などとぼくは思わないが、誰かがそう比喩したことがある。その御堂筋を歩いてみた。


御堂筋は全長4キロメートル。往復するのは大変だ。しかし欲張らずに、たとえば本町から北上して淀屋橋へ、そこから少し足を延ばして土佐堀川と堂島川を渡ったあたりまでなら1.5キロメートル足らず。行って帰ってきてもちょうどよい距離だ。ところで、御堂筋は彫刻ストリートでもある。東西の舗道に世界レベルの逸品を含む29体の作品が屋外展示されている。複製やレプリカではない。なかなか太っ腹な試みだといつも感心しながら鑑賞している。

陽光ひかりの中で』という作品がある。ウェブの解説にはこう書いてある。「人は心満たされるとき、豊かな暖かさを醸し出すと同時に、私たちに安らぎを与えてくれる(という作者佐藤敬助の思いが表現された作品)」。このコンセプトを結実させて一体の像が誕生した。すなわち、陽光の中で全裸の少女(?)がシャツだけを着て座る姿だ。なるほど、芸術は不可解にして深淵である。

ビルが建ち並ぶ通り。とある企業の敷地内に誰でも入れる空間がある。プロムナードがあってそぞろ歩きができる。あっと言う間に踏破できてしまうが、先がわからないように少々曲がりくねらせてあるので、視覚的には長い遊歩道に見える。歩けばプロムナード、石のベンチに腰掛ければオアシス気分。樹木の隙間に見えるビルを無いことにすれば、見知らぬ街に遠出してきたような錯覚に陥る。もちろん困惑する錯覚ではない。

帰りは御堂筋を南下する。ネオルネサンス様式の日本銀行大阪支店前で立ち止まれば、道路を挟んで市役所、図書館、中之島公会堂が展望できる。高層ビルが多い立地にあって市役所は9階建て。今では低層の部類に入る。空が晴れて澄みわたる日には川面に青が映り込み、いい感じの水辺の風景になる。ところが、景観努力の最後の詰めが甘い。「追突注意」という黄色い立て看板にがっかりするのだ。この看板で追突事故が減るとは思えない。下手に差し出がましいマネをすると景観が台無しになるという例である。

気分を取り直して南下する。御堂筋が途切れて別の通りに変わる。緑と共存するといううたい文句の商業施設に入る。かなり疲れている。疲れたら座りたくなるものだ。疲れている時はソファは逆効果だ。また、身体全体を包み込んでくれるような椅子もよくない。尻にやさしくない堅いベンチがいいのである。公園でくつろぐベンチはおおむねそういうしつらえになっている。

自分に合う家具選びは難しい。しっくりくるかこないかの感覚は身にまとう衣装に似ている。椅子は家具である。座り心地とデザインと用途の三要素を揃えてくれる椅子が理想だ。言うまでもないが、「彼が次に狙う椅子は……」というような比喩としての椅子の話ではない。家具としての、あるいは作業や休息環境としての椅子。エスカレーターを上がると、足腰を休めるのに絶好の長椅子が現れた。背もたれもクッションもない簡素なデザイン。ここに三人で掛けるのではなく、独り占めできれば贅沢このうえない。そして幸いなことに、しばしの間、思い通りになったのである。

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proconcept

岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

「GWの街歩き」への2件のフィードバック

  1. もう、四十年前近くに、上田正樹と有山じゅんじがぼちぼちいこかってレコードだして、♬梅田からなんばまで♬って曲を出して、未だに愛聴盤です。でも、その歌にある風景は、もっと猥雑で〜〜

    最近、なんばあたりの、御堂筋沿いの歩道がやけに広がって居て、、ゴチャゴチャ感が、無くなるかと思いきや、やっぱりそこは大阪、同時にアジアン達がワンサカ押しかけて、意外と、猥雑でした。

    でも、中之島沿いは、セーヌ川とまでは行かないにしても、中々の場所になってきましたね。

    梅田からなんばまで、裏なんばみたいに、未だにゴチャゴチャな町へつづく、この町も、時々ホットしますね〜

    1. たまに裏難波を昼間に歩きますが、あのあたりにしても、昔に比べたら場末感はさほど強くなく、若い人たちや女子グループもさすらっていて、垢抜けているような気がします。

      裏難波の立ち飲みで4、5軒毎晩のように通うのは、うちの二男です。ぼくと違ってかなりの酒豪です。

      大川、堂島、土佐堀の三つの川はセーヌ川のように蛇行していて、川岸の景観さえ整えれば、上積みはありそうです。建物は色がある程度渋く落ち着いていないといけません。

      大阪市や大阪府の有識者懇話会やコンペ審査会に招かれる立場上、過激な批判はできませんが、あまり大阪色を意識して打ち出すようなイベントやプロジェクトは感心しません。観光都市の前に住民都市ありきだと思いますよ。住んでいる人が快適な街には人は必然集まってきますから。

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