小題軽話(その2)

汽車か馬車か  旅するにあたって、アンデルセンは馬車よりも汽車のほうがよいと考えていた。常識的に考えれば、馬車のほうが旅情に溢れていると思うのだが、「汽車では旅情が失われるというのはウソだ」とアンデルセンは主張した。ぎゅうぎゅう詰めの馬車よりも汽車のほうが快適、しかも景色をよく見せてくれる、馬車は旅の時間を間延びさせているにすぎない……というのが理由だった。きっぱりと過去への未練を捨てたのが産業革命時代だったが、その一つの例かもしれない。

ジョークのマナー  「あの人はにこりともせず淡々とジョークを語る。クールだが、とっつきにくく、不気味でさえある」と評された男がいる(どちらかと言えば、ぼくも同類だが、その男はぼくではない)。彼の肩を持ちたいと思う。にこにこ笑ってジョークを披露するなどありえない。素人や安物の芸人ならやりかねないが、ジョークの達者な語り部は表情一つ変えない。過剰なジェスチャーもしない。それがマナーなのだ。

ジョークの役割  これはぼく自身の話である。講演や研修でコミュニケーションや思考、企画やリテラシーを扱う都合上、どうしても難解な術語が出てきたり硬派な講話に傾いたりする。少しでもやわらげるために笑話やジョークをはさむ。一種の糖衣効果、あるいは、話がやさしく聞こえるプラシーボである。しかし、後日よく言われることがある。「いやあ、核心の話はほとんど覚えていませんが、講義で聞いたジョーク、あちこちで使わせてもらっています」。

幸せは束の間  やせ細ったねずみが果樹園に小さな穴を見つけた。まったく苦労なく中に入れた。各種フルーツ食べ放題。その日からねずみは頬張り貪り、毎日腹いっぱい幸せいっぱいの日々を送った。ある日、ねずみは仲間のことが無性に恋しくなった。抜け穴から外に出ようとするが、すっかり太ってしまって穴を通れない。「元のようにスリムにならないと古巣に戻れないのか……」。ねずみはその日から一切フルーツに手をつけず絶食した。すっかりやせ細ったねずみは穴をくぐり、腹を空かせながら仲間の所に帰って行った。おしまい。

スイッチのON/OFF  オン/オフというのは切り替えである。仕事と休暇、気分、緩急、公私……どんなことにも切り替えが必要。誰かに命じられて切り替えるよりは、自らスイッチを操りたい。上手にスイッチを切り替えて他者に働きかけ、人間関係の中で生きていることをつくづく実感したい。ところが、最近感じるのだが、スイッチを持っているのにずっとオンずっとオフのままで、切り替えない人がいる。故障しているのに修理しない人もいる。そして、とても不思議なのだが、そもそもスイッチを持たない人が急増中なのである。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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