できそうにないことはしないという生き方がある。つまり、できることだけを淡々とおこなうということ。別段変わった生き方ではない。たとえば、旅行先で泊まる場所を確保するためにホテルを建設しようなどとは思わない。
他方、今まで経験していないこと、できそうもないことに敢えて挑んでみようという生き方がある。ガーデニングなどまったく縁遠い趣味だったが、ひょんなことから始めてみるなどという類い。もっとも、全く手も足も出ないことになると話は違ってくる。
できないことはしない、いや、できそうもないけれどやってみる。どっちが正しいかなどという話ではないし、二者択一に決める必要もない。状況に応じて、あるいはもっと適当に気分に応じてやるかやらないかが決まってくる。
今はできないけれど、できないからと言ってじっとしていては、いつまで経ってもできるようにならない、ひとつやってみようではないかと気分よく思える時がある。ところが、やってみればできそうなのに、迷っているうちになんだか億劫になってきて、できそうもないという空気に支配される。いや、できないのだと妙なふうに自己説得して「できそうもないからやめておこう」となる。
最近できそうにないことをやってみた。まず大掛かりな書棚をオフィスの一室に作り付けてもらった。かなりの出費になった。そして、大胆なことに、自宅の蔵書約4,000冊をそこにすべて移そうと決心したのである。単なる移動ではない。大移動である。半月以上かけて単行本中心にすでに1,500冊ほど運び込んだ。まだ道半ばだ。まだ単行本500冊、2,000冊近くの新書や文庫が書斎に残っている。
「車を一台出すので手伝いますよ」と言ってくれた人、一人や二人ではない。一度だけお願いして300冊ほど運んでもらった。一気に何千冊というわけにはいかない。すべて並べ終えるまでにダンボールに入れたまま放置することになるからだ。と言う次第で、毎日50冊ずつ自転車で運んでいる。書棚への並べ方にはぼくなりのこだわりがある。一日50冊程度なら小一時間で片付く。気長にあと半月、いや一ヵ月。できそうに思えなかった「一大事」をほぼ一人でせっせと実行中である。