シェフ日誌が教える書く習慣

「本を読んで考えるだけでなく、書いて考えればいっそう思考が深まり明快になる」。このように毎度説くのだが、即座に膝を叩いて納得してもらえるわけではない。最近、言を費やす以上に説得力のある事例を見つけた。テーマは料理。ビギナーが一人前のプロになる過程で書くことが大いに手助けになるという。

料理人を目指す者にとっては、料理に関心を持つことと料理人になることはイコールである。関心の度合と技能の多様性が素人と一線を画する。いま手元に“The Becoming a Chef Journal”という本がある。さしずめ「シェフ(になる)日誌」という意味。アメリカの著名なシェフらの洞察力に富む名言がほぼ全ページの右上に引用されている。拾い読みするだけでも大いに啓発されるが、実はこの本、読み物としてではなく、サブノートとしての活用を主眼として編集されたのである。


一口で言うと、本書は「料理人を目指すなら料理に関する情報や発想のノートを習慣化せよ」と唱える。書き込みすることを前提にしているからサブノート形式になっている。本書にレシピや盛り付けなどの記録を綴れば、積もり積もってインスピレーションの源泉になる、というわけ。

ある見開きページ。左のページに「レストランのレビュー記事を保存」という見出し。雑誌やウェブで読んだ記事をここに転記したり貼り付けたりする。右のページには「このレビューを選んだ理由」とあり、3つの問いに答えるようになっている。

「このレストランのどんな点が気に入りましたか?」
「意表をつかれたメニューは何ですか?」
「実際にレストランに足を運んだ後もレビューの記述に同意しますか? する理由またはしない理由は? 自分の経験に照らし合わせてどう感じますか?」

こんな具合に問いによって書くきっかけを与えて考えさせる。料理の本を読むだけでなく、つねに問題意識を持って何かを書いてみる。ビギナーの日誌習慣をあの手この手の仕掛けで促すようになっている。書いて覚えようという単純な教えではない。書くからこそ分かり、書くからこそ一流の仕事につながる一流の考え方ができるという哲学。どの分野であれ、一流のプロフェッショナルはよく書きよく考えるのである。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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