3日前「あれもこれも」と「あれかこれか」について書いた。その折りに、論理学の基本用語の“and”と“or”のことがよぎった。論理的ということについては諸説あるが、基本は文章の明快さのためのルールや法則に適っていることだ。「~は~である」もそうだし、「~は~ではない」もそうである。他に「すべて(all)といくつか(some)」や、そして「かつ(and)とまたは(or)」も論理的文章を書く上で欠かせない。
X and Y(XかつY)は「セット」という感覚。ケーキセットを注文すればケーキとドリンクが出てくる。ケーキが付いていない、あるいはコーヒーが付いていないならandの条件を満たしていない。「印鑑と運転免許証持参のこと」とあれば、両方を持っていかなければならない。
X or Y(XまたはY)はセットではなく、いずれか一方を満たせばよい。「運転免許証またはパスポート」とあれば、両方持って行く必要はなく、いずれか一つで身分証明の要件を満たせる。当たり前のことだが、「ケーキセットにはコーヒーか紅茶が付きます」とは、コーヒーと紅茶の両方は飲めないという意味である。
X and YとX or Yに否定が絡んでくると、論理学の初心者には厄介である。「机の上に鉛筆と消しゴムがあった」の否定はどう言えばいいのか。よく間違われるのが「机の上には鉛筆も消しゴムもなかった」である。
あなたは危険な居酒屋に入った。この店では赤と白のグラスワインを差出して一言を添える。ところが、その一言はつねに虚言なのだ。いったん否定して真実を探らねばならない。
「赤ワインにも白ワインにも毒が入っていないよ」
こう言われたら、「赤ワインには毒が入っていない。かつ、白ワインにも毒が入っていない」と読み替える。そして、この文章を否定する。つまり、「赤ワインに毒が入っている。または、白ワインに毒が入っている」。否定する時、「かつ」を「または」に変えるのがポイント。一方が毒入り、他方が毒入りでないということになる。確率は五分五分だが、安全なのが赤か白かはわからない。
「赤ワインか白ワインのどちらかには毒が入っていないよ」
こうコメントされた。「赤ワインに毒が入っていない。または、白ワインに毒が入っていない」と読み替えて、否定する。「赤ワインに毒が入っている。かつ、白ワインに毒が入っている」となる。「または」を否定すると「かつ」に変わる。両方が毒入りであるから、たとえただでも飲んではいけない。
「赤ワインか白ワインのどちらかに毒が入っているよ」
こうつぶやかれたら、「赤ワインに毒が入っている。または、白ワインに毒が入っている」と読み替える。これを否定すると、「赤ワインに毒が入っていない。かつ、白ワインに毒が入っていない」となり、どちらを選んでも安全ということになる。
「かつ」と「または」を含む文章の否定形を作るには、次の変換法則を覚えておけばいい。
「XとYは~である」→3つの要素に分ける→「Xは~である」「かつ」「Yは~である」→(それぞれの要素を否定する)→「Xは~ではない」「または」「Yは~ではない」。
「XかYのいずれかが~ではない」→3つの要素に分ける→「Xは~ではない」「または」「Yは~ではない」→(それぞれの要素を否定する)→「Xは~である」「かつ」「Yは~である」。
こんな論理図式に出番などなさそうだが、「論点Ⅰと論点Ⅱから結論が導かれる」という主張を覆すのに論点Ⅰと論点Ⅱの両方を検証否定する必要はなく、いずれか一つを否定できればいいことがわかる。