何々ファースト

「ファースト(first, 1st)」は最初や1番目を意味し、形容詞として使われることが多い。最初や1番目ならはっきりしていそうなものだが、美しいやおいしいなどの他の形容詞同様に、わかったようで実はよくわからない。

「レディーファースト(ladies first)」という表現が英国で生まれたその昔、対象になるレディーは今のレディーとはまったく違う待遇を受けていた。カナリアがサリン製造現場の捜索に使われたように、レディーは男にとって毒味役の存在だった。危なっかしいことを何でも最初に試させられたのである。

時代が移って現在、レディーファーストは(タテマエとしては)優先すべき存在としてリスペクトするという意味になり、リスクの大きそうな役割は男が受け持つようになった。だから、レディーに先に行かせたり先に食べさせたりする場面や状況をよくわきまえなくてはいけない。よくエレベーターにレディーを先に乗せる男がいるが、間違いである。エレベーターに乗る時は男が先。エレベーターはボートと同じで「危険な空間」と見なされる。降りる時は、危険地帯から安全地帯へ移動するからレディーファーストになる。


ところで、例の「都民ファースト」はいったい何だったのだろう。まさか都民を毒味役にしようとしたスローガンであるはずはなく、当然一番に考えて優先するということに違いない。それなら、わざわざ代弁してもらうまでもない。政治は国民、都道府県民、市町村民それぞれがファーストであることは自明だ。

つまり、「民主」というニュアンスにほかならない。過去様々な党名が生まれては消えたが、よく目を凝らして見れば、自由民主党にも立憲民主党にも民主が入っている。国民民主党などはくどいほどの念の入れようだ。

ファーストなどはあまり信用しないほうがいいのかもしれない。ファーストに対抗してオンリーワンも一時流行ったが、一見ランキング概念を外したようで、実は優位性を意識している。本質はさほどファーストと変わらない。ちなみに、もっとも適切で意味が明快だったファーストの用法は「四番、ファースト、王」である。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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