上位概念から降りてくる発想

身体のことを気にし始めるとキリがないので、医学もののテレビ番組は見ないことにしている。ところが、昨夜は『たけしの本当は怖い家庭の医学』スペシャル版を小一時間見る破目に。たまたまチャンネルを切り替えたら、五十肩の実験をしていた。軽いストレッチを続けてすでに自力で治したが、先々週まで肩甲骨の痛みで苦しんでいたのである。実験を試してみたら問題なく、危険なレッドゾーンを免れた。

そのまま何となくテレビをつけていたら、今度は脳梗塞のチェックが始まった。二つの単語の共通項を見つけよという前頭葉のテストだ。たとえば「みかん、バナナ」に共通するのは「果物」、「テーブル、椅子」は「家具」という具合。ポイントは共通項だ。二つの概念をくくる一つ上のラベル探しである。みかんとバナナで「ミックスジュース」ではダメ。共通項ではなく、みかんとバナナの足し算になっているからだ。テーブルと椅子で「食事」というのもダメで、共通するのは家具という上位概念である。

ぼくのロジカルコミュニケーション研修でもよく似たミニ演習をおこなう。そこで一言はさむと、共通項ということばはちょっと不親切な気がする。たとえば「白菜、白ネギ」の共通項。共通項というのは、二つの異なる物事の共通因数のことだから「白」と答えてもいいはずだ。正解が「野菜」しかないというのはやや硬直化した考えではないか。もし野菜を正解にしたいのなら、「白菜と白ネギを包括する上位概念は?」と小難しく言わねばならない。


しつこいようだが、「xy」の共通因数などいくらでも挙げることができる。「犬、猫」は「ペット」でもいいし「哺乳動物」でもいい。「大阪市、堺市」が帰属する上位概念は「大阪府」だが、ざくっと共通項を拾えば「政令指定都市」や「人口80万人以上」でもかまわない。「ボールペン、万年筆」に共通する上位概念を求めるにしても、「文具」でも「筆記具」でも「ペン」でも間違いではないだろう。「xyz」と仲間を増やせば、上位概念はより絞りやすくなる。

このことは、「抽象階段(abstract ladder)」という概念レベルの考え方に関わってくる。

モノ 産業財 工業製品 道具 切削工具 ナイフ スイスアーミーナイフ

上記の例は大きな概念から小さな概念へと抽象階段を降りてきている。「切削工具ナイフ」の箇所にハイライトしてみよう。ナイフの仲間にはノコギリやカンナがある。だから「ナイフ、ノコギリ、カンナ」を束ねるのは「切削工具」である。但し、そこだけを見れば、「日曜大工用品」でも「家の道具箱に入っているもの」でも別にかまわない。

食料と米の上下概念関係は? 「食料⊃イネ」である。イネ側から見れば、その一つ上に食料を置くか穀物を置くかという選択肢がある。食料側から見れば、その下位に「イネ、ムギ、アワ、キビ、マメ」の五穀を配置することになる。さらに、「イネ ご飯 おむすび 天むす」という階段が出来上がる。

哲学の本を読んでいて難しいのは上位の抽象概念が多いからである。ぼくたちは普段の生活レベルから考えるため、「国」よりは「東京」がわかりやすく、実際に住んでいる「杉並区」は「東京」よりもわかりやすいのである。ランチに行くとき、上司は「おっ、昼か。おい、イネに行かないか?」とは言わない。かと言って、「天むすに行かないか?」と、そこまで具体的には誘わないだろう。だいたい「メシに行こうか?」であり、その日に食べたいものがある場合のみ「ランチに鰻はどう?」となるのだ。

ところが、おもしろいことに、残業で夜食を買いに行く場合には「食料調達に行きますけど、何かいります?」という具合になる。コミュニケーションの上手・下手はおおむね「表現の適材適所力」で決まるが、この「文脈に応じた語彙の適正概念」を軽く扱ってはいけない(よく似た話を1128日のブログでも取り上げた)。

件のテレビ番組では、「xy」に共通する上位概念がさっと言えるかどうかで「前頭葉の正常度」をチェックした。それもいいが、ぼくは「上位概念」を小さな因数に分解させるほうがコミュニケーション脳のトレーニングになると思う。社会や人間関係などの概念の要素を拾い出したり、そうした概念をもっと小さくパラフレーズ(言い換え)してみたり……。世間には上位概念のことばを振り回すほうが賢いという錯覚がまだ残っている。ぼくも気をつけたい。