Pizza a credito(ツケでピザを)

マルゲリータ+海の幸 web.jpg去る4月、ナポリのとあるピザ専門店がお持ち帰りのピザを「ツケ」で売り始めた。言うまでもなく、ツケとは誰々に何々を売ったことを帳簿に付けておき、その場では代金を徴収せずに、後でまとめて支払ってもらう方法だ。客側にとっては買い掛け、店側にとっては売り掛けになる。

金に困った男が拳銃強盗をして家族のためにピザを4枚盗んだという事件が発端となった。イタリアの長引く不景気は、ここまで庶民の懐を苦しめているのか。「そんなバカなことをするな、うちの店に来たらツケで食べさせてやるから」というのが店主の思い。もっとも、ツケがきくのは顔見知りのみ、しかも一人につき1回一枚限り。支払いを済ませないと次の一枚を売らないのか、8日後に払いさえすれば毎日でもツケで売るのかは不明。
ピザの名店が並ぶナポリならではの試みだが、実は1930年から30年間にわたって同じようなツケ販売がおこなわれていたという。これを「8日後払い」と呼んでいた。今回も同じ支払い期限を設定しており、現地の新聞はMangia la pizza oggi e paghi tra otto giorni.”(今日ピザを食べて8日以内に支払いする)という一文で記事を書き始めている。

日本でピザを食べると、安くてもナポリの2倍、通常は3倍の値段になる。価格を押し上げているのはチーズである。チーズをトッピングしない、トマト―ソースだけのマリアーナならナポリも日本も値段に大差はない。ナポリ380円に対して、ぼくが大阪で行く店はランチタイムなら最安値で500円だ。ところが、モッツァレラチーズを乗せるマルゲリータになると1,000円は下らない。これがナポリなら450円未満だから、いかにチーズが安いかがわかるだろう。
それはともかく、500円もしないピザをツケで売るのは、ほんとうに家計事情の反映なのか、それともピザ屋の話題づくりなのか。少額をツケにして8日後に自分で払うのと、ン万円分の飲食代をツケにして月末に社費で支払うのとは同じではない。給料前にピザを食べたくなったが、手元に小銭がない、だからツケで食べる? いやいや、ナポリ人なら給料日とは無関係にピザを常食しているではないか。彼らが8日に一枚のピザで我慢できるはずがないんである。
一ヵ月でツケ売りしたのはおよそ60枚と予想より少なかったらしい。この「制度」を、困っているからではなく、お試しに利用した住民もいるのだろうが、別の日には別の店で金を払ってピザを食べているに違いない。実は、この記事を読んで、イタリア映画『自転車泥棒』を思い出した。あの時代ならピザのツケもありえただろう。今時、ツケの3ユーロを8日後に払うのは現実的ではない。仮に毎日ツケにすれば、8日後からは毎日3ユーロ払わねばならないのだ。ぼくならピザを食べずに、自宅でパスタを作る。たぶん1ユーロもかからない。