「どうぞ戦ってください」

年明けの一月中旬にして、本年度流行語大賞の有力候補に躍り出た。「どうぞ戦ってください」は、「信じているということは、幹事長続投ということでよろしいか?」という記者の質問への答えの一部だ。正確に引用すると、「幹事長、辞めるつもりはないと、そのように申していますから、私も小沢幹事長を信じています。どうぞ戦ってくださいと、そう申し上げています」と首相は言ったのである。

下野した党は、検察への戦闘宣言だとざわめいているが、首相の言から「民主党が党を挙げて検察と戦う」などというニュアンスはぼくには伝わってこない。感じるのはむしろ、われ関せずの冷ややかさであって、「小沢さん、孤軍奮闘してください。陰ながら見守っていますから」と聞こえてくる。応援するとも言っていない。党の問題ではなく、どこまで行ってもあなたの問題ですよ、というのが本意ではないか。

結局、どこの党の誰がこの国のリーダーになっても、起こる問題も解決への姿勢もコメントも、予想される収束も同じなのだろう。言い逃れ、責任のとり方、常套句など、政権が変わるたびに毎度同じものを見聞きする。先日テレビ番組で、鳩山由紀夫から歴代総理を遡っていくクイズがあった。麻生太郎、福田康夫、安倍晋三、小泉純一郎、森喜朗、小渕恵三、橋本龍太郎、村山富市、羽田孜、細川護熙、宮澤喜一、海部俊樹、宇野宗佑、竹下登、中曾根康弘、鈴木善幸、大平正芳、福田赳夫……。際限はあるが、まだまだ続くのでここでやめるが、これだけ日替わり定食みたいに変わっていたら、変化こそ不変のような法則を感じ取ってしまう。


福田赳夫が67代で42人目の首相。就任が1976年だ。以来、鳩山氏まで19人の総理大臣が名を連ねる。福田氏と同時期の1976年、英国ではジェームズ・キャラハンが首相だった。次いでマーガレット・サッチャー、ジョン・メージャー、トニー・ブレアと続き、現在はゴードン・ブラウンだ。わずか5人である。わが国では首相になるべき人材が豊富だったのか、それとも英国の4倍分ほど希釈する程度のポジションだったのか。間違いなく言えることは、「1976年まで首相を遡って答えよ」というクイズやテストは英国では出題されないだろう。

米国大統領を同時期まで遡ってみた。バラク・オバマ、ジョージ・W・ブッシュ、ビル・クリントン、ジョージ・HW・ブッシュ、ロナルド・レーガン、ジミー・カーター(19771月就任)の以上6名。こちらもテスト問題になりにくい。ちなみにわが国の初代首相伊藤博文から数えて鳩山由紀夫は60人目で、第93代内閣総理大臣である。この間、124年。アメリカの初代大統領ジョージ・ワシントンから220年、現在のオバマは44代目だ。一国のリーダーがわが国ほど安売りされている国も珍しい。

「官僚主導から政治主導へ」と言ってみたところで、在任期間が短ければ職務に精通している暇はないだろう。首相でこれだから他の大臣ならなおさらである。ぼくの知る大企業では、同一職場での在職期間の長い派遣社員のほうが正社員よりも仕事をよく知っている。これとよく似た状況だ。皮肉ったり苦笑している場合でないのかもしれない。ここ最近の歴代首相の「お坊ちゃまぶり」には呆れ返るばかりである。ことばに力と心がこもっていないのは言うに及ばず、なにかにつけて態度が他人事なのである。困ったものだ。