語句の断章(58) 日陰、日影

日陰と書いて「ひかげ」と読む。日の陰とは、物の陰になって光が照らない、日が射さない場所を意味する。

日影も「ひかげ」と読むが、日陰の同義語ではない。それどころか、日陰と日影は同音異義の関係にある。日陰と日影が同じ意味だと思っている人がかなりいると聞いたが、読みが同じだし似たイメージなのだから、意味も同じだと思うのもやむをえない。

公園のベンチに座ろうとして、「おっと、ここはひかげ・・・が当たるから、ひかげ・・・のあるあっちのベンチに座ろう」と思い直す。前者が日影で、後者が日陰だ。影は英語で“shadow”、日影になると“sunshine”とか“sunlight”になる。日影は「太陽、月、灯りなどの光」の意と古語辞典には書いてある。

日陰者ということばがある。差別用語ではないが、それっぽく響くので書いたり話したりしたことはない。身にやましいことや人をはばかる事情があって社会の表舞台に出ない人のことをいう。世に陰の実力者はいるが、日陰の実力者などは聞いたことがない。ちなみに、日影者ということばはない。

再び古語辞典に戻る。日影の見出し語には〔雅〕の印が付いている。雅語がごのことだ。現代の日常会話や普段書く文章で使われることは稀だが、短歌や俳句や文語文では今も使われるやまとことばである。日影もその一つ。今の時代、「ひかげ」と言えば「日陰」のことだと思われる。「日影」のつもりなら日光か日射しと言うほうがいい。