性懲りもなく「嘘」

えっ、まだ続く? と呆れ返られそう。しかし、今回で嘘の話にはピリオドを打ちたい。これは嘘ではない。嘘ついたら、針千本飲んでもいい。

そうそう、「嘘ついたら針千本飲~ます」なんていうのは、あまりにも現実離れしていて脅し効果もなければペナルティにもならない。「死刑百回!」なんていうのが恐くも何ともない、ただのギャグであるように。

小生意気な子どもは「それなら、針千本用意してよ」と逆襲して親を困らせるかもしれない。相手をよく見て脅すべきだろう。子どもには「嘘ついたらカレーライス食べさ~せない」とか、若い女性には「嘘ついたら不細工にな~る」とか、社員には「嘘ついたら社長にす~るぞ」とか……。社長業は貧乏くじであることが多いから、罰効果はあるかもしれない。

どうしても針を飲ませたいのなら、本数を示さずに「嘘ついたらとんがった針飲~ます」がいい。個人的には口に入れることがまずありえない針よりも、口中で使う爪楊枝がいいと思っている。「嘘ついたら爪楊枝飲~ます」は現実味を帯びており、食後に必ず爪楊枝を使うオヤジ世代には有効だ。


さて、なぜこれほど執拗に嘘について綴ってきたのか。それには理由がある。

昨年マスコミで報道された偽装事件約50件、水面下では注意や指導レベルの小さな嘘がうようよしていただろう。商品ではなく、公的な虚偽の発言まで含めたら、おそらく数え切れるものではない。嘘の本質をもっともよく表わしている表現、それは「嘘を嘘で固める」だ。これは「小さな嘘を大きな嘘で固める結果、嘘が人間を支配する状況」である。あるいは、「少しだけ赤みを帯びた嘘が真赤な嘘に変貌していく過程」である。

嘘について考えれば考えるほど、嘘と真実の境界がわからなくなってくる。もう一度嘘の定義を確認しておこう。「有利な立場に立ったり話を面白くするために、事実に反することをあたかも事実であるかのように言うこと」。面白くするための虚偽は良しとしよう。大笑いした後で嘘だったとわかっても誰も被害を受けない。問題は「有利な立場に立つための虚偽や事実の歪曲」である。

安く仕入れて高く売りたい――これは有利な立場に立つための欲求だ。そこでというブロイラーを産地鶏として売る。ばれる。その他の小さな嘘も暴露される。ブランドが失墜する。やがて廃業・倒産に追い込まれる。有利な立場に立つための所業が不利な立場、いや取り返しのつかない絶命を招く。嘘は割に合わない。

嘘と誇張の違い、嘘と省略の違い、嘘と解釈の違いなどはきわめて微妙である。事実のすべてをことばにすることはできない。有利な立場に立つために、事実の一部を誇張したり、一部を省略したり、解釈を変えたりすることは日常茶飯事である。ここまでは”滑り込んでセーフ”としなければ、生活もビジネスも成り立たない。しかし、これらの行いが当の相手を不利な立場に追い込んだ時点で“タッチアウト!”

「他人を不当に不利な立場に陥れるために、事実に反することをあたかも事実であるかのように言うこと」 という新しい定義が嘘の悪質性を見極める判断基準になるだろう。陰に回ると誰かの悪口を言って評判を落とすのを趣味にしている連中がいるが、ほぼ例外なく大嘘つきである。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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