どなたとも連絡が取りづらい今日この頃、仕事は間断なく流れてくれない。必然、時間ができる。時間のちょっとした隙間に駄文を綴って息抜きをする。息抜きで書く文章なので押しつけるつもりはない。午後二時にコーヒーを飲みながら……。
【数多と多数】
(例)昔は「引く手『数多』」という言い回しをする年配者もいたが、いかにも古風である。最近の若者は「多数」、多くの、いっぱい、たくさんで済ませる。
『万葉集』に「鷹はしもあまたあれども……」という長歌がある。「鷹にかぎれば多数いるが……」と現代語に訳すと雰囲気が出ない。数多をそのまま使って「鷹こそ数多くいるが……」とするほうがいくぶんこなれるかもしれない。
【色気と気色】
(例)「色気」は人の性的魅力に使われるが、「気色」は風景や気配の様子を表す。「気色だつ」とか「気色ばむ」と言ってもなかなか通じなくなった。
気色を「けしき」と読めない人が少なくない。また、「けしきの漢字が間違っていますよ。気ではなく景ですよ。そう、景色」などと節介を焼いて平気である。
【学力と力学】
(例)「学力」は純然たる本人の実力だと思うむきもあるが、オトナ世界ではそこにも「力学」が働くことが稀ではない。
力学には様々な変種がある。学閥と派閥、贔屓、脅しや威喝……。最近とみに注目されるようになった忖度も力学の一つと見なされる。
【実現と現実】
(例)夢が「実現」することはめったにないが、「現実」だと信じていたことが夢まぼろしだと気づくことはよくある。
現実とは何かを考える上で、対義語である「理想」「虚構」「架空」の理解は絶対である。人は、理想や虚構や架空ではない現実に直面する。そして、気に入らなければ現実逃避する。しかし、実現は動的な変化を示す。誰もが実現機会に恵まれるとはかぎらない。
【取引と引取】
(例)荷物などの「引取」の代理をしてくれるという条件付きで、御社との「取引」を前向きに検討したい。
うまく行かない取引もあるが、本来は利益を生むための積極的な手段である。他方、引取はややネガティブだ。要らなくなったものや厄介なものなら、下取とほぼ同じ意味になる。しつこい人なら、早々にお引取いただきたくなる。
シリーズ〈二字熟語で遊ぶ〉は二字の漢字「AB」を「BA」としても別の漢字が成立する熟語遊び。大きく意味が変わらない場合もあれば、まったく異なった意味になる場合がある。その類似と差異を例文によってあぶり出して寸評しようという試み。なお、熟語なので固有名詞は除外。