仕事場の窓際に二十ほどの植木鉢があり、窓を開け放つと葉が風に揺らぐ。そよ風と小さな鉢の土も一人前の「風土」を装っている。
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「風土が人間に影響する」と和辻哲郎が言い、賛否両論が巻き起こった。戦中戦後の話である。100パーセントではないが、人間は多少なりとも風土の影響を受けてきたのは間違いない。わが窓際のミニ風土で気分が変わるのだから。
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食は風土の最たるものだろう。人は好きなものやうまいものを食ったのではない。行き着いて定着した場所で食ったものをうまいと感じて好きになったのである。つまり、「Foodは風土」であった(幕内秀夫『粗食のすすめ』)。
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風土に関わるようになった人は原風景を切り取って愛で、あるいは自ら風景を創造した。たとえばサンマルタン運河沿いには樹木があり花壇がある。そこで人は遊歩人になり、絵描きになり、詩人になる。稀にホームレスとして生きていく人もいる。
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西向きの窓からの風に葉がまだそよいでいる。風のことを紡がず、土のことを詠まず、カフェテラス気分で飲む午後のコーヒー。かけがえのない休憩。