「日本に四季があると聞いたが、おれたちのアフリカにも三季ならあるぞ。Hot、Hotter、 Hottestだ」という、今ではすでに古典になったジョークがある。三季説、昔は珍しくなかったそうだ。古代ギリシアでは三季だったらしい。
『美しい日本語の風景』(中西進著)の「なつ」と題した小文に次のくだりがある。
そもそも一年を戸外で働く季節と働かない季節、つまり二季に分けることができる。その後者が冬だった。一方に働く季節がやや分化すると「春耕秋収」という中国の句になる。働く季節を二つに分けたのだから合計三季。かくして夏はもっとも遅く誕生した季節となる。
春に種まきと耕作の仕事、秋には実りの収穫という仕事をして、冬に休む。これで三季だが、春の後にすぐ秋が来るわけではない。好天が続き強い陽射しと雨に恵まれてこそ「実が生る」のである。夏がどのように派生したかについては諸説あるが、おおむね次のような説が有力だそうだ。
暑い→なつい→なつ
熱→なつ
実が生る→なつ
春から秋に飛ぶと、生活の糧となる「果と実」の成熟・成長過程と時間が割愛されることになる。これはちょっと具合が悪い。と言うわけで、一年をもっと緻密に分節するようになった。豊穣の秋を迎えるためには、暑さへの敬意が欠かせなかった。
こうして夏は、種まきと刈り取りを――すなわち春と秋を――つなぐ重要な一季として生まれたのである。