『秋フルーツをつまみにハイボール』

今回は『秋フルーツをつまみにハイボール』という書名の本を書評する。言うまでもなく、秋フルーツをつまみにハイボールを呑んだことについて書かれた本である。最近、極端に盛ったエピソードやフェークまがいの話の本が目立つなか、本書はマジメであり、まっとうなことしか書かれていない。

編著は「日果研」。日本果物研究会を略したような名称になっているが、あとがきには「著者は私一人」と記されている(「私」が誰だかは明記されていない。姓が「にっか」、名が「けん」かもしれない)。

ある日、著者は昼遅くに焼肉の食べ放題を貪ったという。いくばくかの罪の意識を覚えて食べ終わったのが午後2時半だった。その日は午後8時を過ぎても腹が空かなかったそうである。しかし、何も口に入れないで寝床に就くと、真夜中に目を覚まして夜食することになりかねない。以下、次の文章が続く。

前日の青空市場での買物を思い出し、フルーツなら少しはいけそうだと考え、一口サイズにカットした。林檎、柿、無花果、真桑瓜の4種をつまみにして、白ワインにするかウイスキーにするか迷い、口の中での味のマリアージュを想像した結果、ウイスキーに軍配を上げた。ロックでもなく、ストレートでもなく、水割りでもなく、直感でハイボールを選んだ。

フルーツという総称をカタカナにしながら、個々の果物を漢字表記しているから妙味のある雰囲気が出ている。マクワウリを漢字で見るのは初めてかもしれない。

書評する者は本だけ読めばいい。書かれていることを実行する義務はない。たとえば世界遺産巡りのエッセイ本の著者のマネなどしたくてもできないのだ。しかし、ウイスキーのハイボールなら作れる。リンゴとカキとイチジクとマクワウリをすべて揃えるのは少々面倒だが、スーパーと果物店を何軒か回れば何とかなるだろう。首尾よく手に入れればカットして小皿に盛るのに苦労はない。

そして、実際に試してみたのである。著者はフルーツにウイスキーのロックもストレートも水割りも合わせていないようだが、すべて試してみた。著者のハイボールという直感は見事だった。フルーツにはこれしかないと思わざるをえないほど、運命的な相性の良さを認めざるをえなかった。

まっとうなことしか書かれていないし感動的な話も少ないが、読むうちに行動を促され、行動ゆえに書評が出来上がった。言うまでもなく、読後はほろ酔い気分になっていた。

㊟ 通常は、まず本があって、それを読む人がいて、その人が書評をしたためる。しかし、書評と同時に空想の書物が成り立つこともあるのではないか。そんな好奇心から試みたのが本編である。一読をおすすめしたいし手元にあればお貸ししたいが、『秋フルーツをつまみにハイボール』という書名の本は実在しない。仮にすでに書かれていたとしたら単なる偶然にすぎないが、一読価値がありそうだ。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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