月に一度か二度ひいきの古本屋に行く。脇目もふらずにそこを目指して行く。目指すのだからすでに買う気満々、たいてい5、6冊買う。自宅から歩いて20分ほどの所なので、散歩や所用のついでに寄ることもある。その時は手ぶらで店を出ることが多い。
さらに近い、徒歩わずか5、6分の所に古書店がもう一店ある。日常生活圏の道沿いにあるので、そばを通ると必ずチラ見する。三度に一度は店に入る。前述のひいきの古本屋ほど利用しないが、たまたまセールの日だと品定めする。ある日、セールのPOP広告が目に入り足が止まった。
結論から書くと、セールの仕掛けに見事に釣られてしまった。書名をいちいち紹介しないが、文庫本を10冊も買ってしまったのである。POPには「文庫本1冊100円(税込)」と書いてあり、これだけならセールと銘打つほどのことはない。ポイントは値決めの方法だった。
1冊100円、2冊200円、3冊300円、4冊400円、5冊500円と、ここまでは当たり前の単純掛け算。ところが、6冊買いの値決めが600円ではなく、5冊買いと同じ500円。それどころか、7冊でも8冊でも9冊でも500円。なんと10冊でも500円。つまり、5冊から10冊なら何冊買っても同じ500円なのである(ちなみに11冊なら600円)。
と言うわけで、ぼくは10冊買った。読んでみようと思った5冊はすぐに選べたが、その5冊ほど気が進む本がなかなか見つからない。しかし、悩むことはない。10冊買うつもりなら5冊は無料になるのだから。自分は読まないかもしれないが、オフィスの本棚に並べておけば誰かが読むだろうという感じで残りの5冊を選んだ。
こんな値決めをしている古本屋で10冊買ったという話をしたら、知人が「考えられない」と言った。値決めのことではなく、読むか読まないかわからない本を5冊手に入れたぼくのことをそう言ったのである。「読みたい本が5冊しかないなら、あと5冊が無料でも読みそうもない本なら絶対に持ち帰らない」と彼。「いやいや、そのほうが変だろう。たとえば自分が読まなくても、歴史小説を5冊選んで好きな人にあげればいいし」とぼく。
議論を深めると厄介な「要不要論」になりそうなのでやめた。ぼくはミニクロワッサンが5個でも10個でも同じなら10個にする。イタリアに旅行した時、3泊すれば4泊目無料というホテルに4泊した。知人もそうするだろうと思うが、本だとそうはならないようで、たとえ無料でも読まない本はいらないのだ。本にはそういう思いにさせる何かがあることは認める。