わがBefore/After対照録

あるものを時間経過の中で見比べてみると、変化や違いがわかる。テレビ番組のタイトルでもおなじみの「ビフォー・アフター」。「劇的!」という修飾語が付くリフォームの番組。変化が劇的なら比較のやりがいがある。どんなサプリでダイエット効果が出たのか、どの化粧品でメイクが変わったのかなど、使用前と使用後は視覚的に対照するとよくわかる。

過去の思い出や記憶を振り返る時にもビフォーとアフターが対照されている。一般的にはビフォーが過去でアフターが現在であるが、ビフォーとアフターに過去と未来を、あるいは現在と未来を、それぞれ対置させる場合もある。さらには、過去の中に大過去と過去を対置させることもできる(たとえば中学生の自分と社会人になりたての自分)。今日をアフターとして、半世紀前も3年前も昨日もビフォーに見立てることができる。

昨夜、焼酎を一杯飲みながら、これまでの自分を振り返って、以前と現在をノートに書き出して比較してみた。『わがBefore/After対照録』と名づけることにする。


〈記憶〉には二つの機能がある。過去の物事を脳裏にとどめることと、とどめたことを随時再生できることである。顔と名前を結びつけてすぐに覚え、いつでも思い出せるのが記憶力。しかし、後年、顔は思い出せるが名前がなかなか出てこないというような状態に陥る。かつて10覚えて10思い出せた記憶力も、5以下しか思い出せないていたらくだ。

Before: 以前は誰であろうと、人の名も顔もよく覚え、よく思い出せたものだ。

After: 今は会ったり知ったりする時点で記憶装置にフィルターをかけている。元々覚えていないから、思い出しようがない。

〈イタリア料理〉と言えばパスタ。仔牛のカツレツやリゾット、フィレンツェ風Tボーンステーキやアクアパッツァなど、特徴ある他のイタリア料理には気の毒だが、パスタが目立ち過ぎた。

Before: 数年前まではパスタをよく外食し、自分でもよく作って食べたものである。おそらく週二のペース。さらにそれ以前にはイタリアに6度旅して「究極」と言えるパスタの皿を各地で食べ比べた。

After: パスタを食べつくした感が強く、今はせいぜい月一。ピザのほうが食べているかもしれない。一番よく食べているイタリア食材は生ハムだ。

〈散歩たまにタクシーには乗るが、車を運転しない(免許がない)。徒歩5分圏内にメトロの3路線の駅があるので不自由することはない。用事があれば歩く、メトロに乗る。用事がなくても歩く。これを散歩という。谷や丘や坂がつく地名の多いエリアを歩く。

Before: 先週の土日にかなり歩いた。無性に坂を上り下りしたくなり、「坂の上の散歩道」を選んで歩いた。

After: 週半ばの今日、隙間の時間に、坂の上ではなく、また歩くのでもなく、『舌の上の散歩道』という團伊玖磨のエッセイを読んでいる。

〈読書〉子どもの頃、自宅にほとんど本がなかったが、ワケあって幼稚園に通わなかったので、本を買ってもらって読んでいた。高校受験前までは小説一辺倒の読書少年であった。

Before: 一番よく本を読んだのは27歳~31歳の頃である。一日に3冊読むこともあった。5年間で2,000冊以上読んだはずである。

After: 本はせいぜい週に1冊完読し、あとは拾い読み程度である。その代わり、おびただしい数の本を手に入れる。読む本の10倍以上の本を買っている。言い換えれば、10冊買って1冊読むのである。かつての読書家は、本を買うのを楽しみとする「買書家」になった(資産として買っているのではないので「蔵書家」ではない)。

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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