イタリア紀行16 「中世のたたずまい」

ルッカⅡ

ルッカの駅で少し慌てる体験をした。駅に着くと何はさておき、帰りの時刻表を確認して復路の切符を買い求めることにしている。ルッカからフィレンツェまでの準急料金は4.8ユーロ。10ユーロ札を自販機にすべらせてボタンを押すと、切符は出てきたがお釣りが出ない。釣銭ボタンめいたものを押してもダメ。あ~あ、イタリア特有の故障。これは面倒なことになるぞと覚悟する。

よく見ると切符の下にもう一枚切符が……。実は、切符ではなく、釣銭の額が印字された金券だった。これを窓口に持っていき、サインをして現金に換えてもらうのである。面倒臭いが、お釣りの硬貨が出ますようにと祈らねばならないイタリアのローテク券売機ならではの工夫と言える。外国人旅行者にとって鉄道駅は想定外の出来事に満ちている。降り立つ駅ごとに特徴があり、軽い緊張感を覚える。とは言え、ハプニングは異文化に遭遇する貴重な機会であり体験である。

さて、プッチーニの銅像を目当てに、二つの通りを往来してみた。フィッルンゴ通りとグイニージ通りだが、行ったり来たりしたので、手元の写真の光景がどちらのものかよくわからない。どれも中世の印象を色濃く残しており、煉瓦仕上げの建物の外壁は古色蒼然としている。この街は戦争を経験していないから14世紀がそのまま今に生きているようだ。試行錯誤したあげく、どっちを通ってもローマ時代の円形劇場に辿り着くことがわかった。

メルカート広場の一画にローマ時代の古代円形劇場跡を利用した集合住宅がある。円形空間の周囲に建物が「丸く」びっしりと建っているのは奇観と形容すべきか。ルッカ独特の景観である。円形劇場から東西へ少し行けば、有名な旧邸宅があるのだが、敢えてそちらへは向かわず、ぼくにふさわしい裏道を選んで帰路についた。

メジャーではないだろうが、ルッカも知る人ぞ知る観光地の一つ。ツアーの団体も見られたが、観光客を特に意識した街並みや店づくりはしていない。通りが狭く建物が古いせいだろうが、中世の風情を保ちながらも生活感を漂わせる街並みであった。駅に戻る途中、城壁跡である遊歩道に上がってしばし散策。緑地帯に囲まれた中世の街がとてつもなく希少な存在に見えた。 《ルッカ完》

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狭い通りが中世の面影を濃くする。店構えもこじんまりしている。  
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円形劇場跡の外壁。
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中庭風の広場の一角。
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劇場跡のメルカート広場の中央に立ち、円形状に建ち並ぶ建物をぐるぐる回りながら撮影。ここには1830年までローマ時代の観客席がそのまま残っていた。その観客席部分に建物が建っている。地下は古代のままなので、まさにローマ時代の上に現在が暮らしているという構図。
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広場を裏手から出ると、ひっそりと遺跡の名残。“Antico Anfiteatro”とは「古代円形劇場」。 

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岡野勝志(おかのかつし) 企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長 企画アイディエーター/岡野塾主宰 ヒューマンスキルとコミュニケーションをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。

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