「忘れ物」をしてしまうのは注意が行き届いていない時である。忘れ物は、わざとすることはなく、たいていうっかりしてやってしまう。必要な物を持たずに外出したり、傘を置き忘れて帰ってきたり。忘れるのは物だけではない。アポや予定などの「忘れ事」もある。
まったくぶれないルーチンを日々こなしていると、置き忘れ、持ち忘れ、やり忘れは少なくなる。たとえば、鍵をなくしたとかどこかに置き忘れたとかは、記憶力の問題ではない。その種のミスは、ルーチンから外れた行動をする時に生じやすくなる。たとえば、いつものバッグを別のバッグに替えるなど、普段と違うことをするとミスの原因になる。
創意工夫の人ほど新しいことにチャレンジするので、ミスのリスクもそれなりに背負うことになる。他方、ミスや忘れ物の少ない人はルーチン型であり、飽きずに同じ行動を繰り返せる人である。毎日同じルーチンをしているにもかかわらず、ミスや忘れ物をするようになったら要注意である。
先日、NHK-BSで『世界ふれあい街歩き』を見ていた。街歩きして話しかけたりナレーションしたりする女性の声がキムラ緑子だとわかり、顔も瞬時に浮かんだ。番組には「寄り道コーナー」があり、男性が担当している。いつも栃木弁の声を聞き分け、顔も名前もすっと浮かぶが、その日に限って名前が出てこない。番組が終わってからしばらくして、「つぶやきシロー」だと言えた。すぐに思い出したので「ど忘れ」である。
元々知らないことは忘れもできず思い出すこともできない。以前に知っていたし覚えてもいたものごとを思い出せないのを「物忘れ」という。昨日までふつうに再生できていたことが、ふと今だけ記憶からすぐに呼び戻せない。これが「ど忘れ」だ。次の日に思い出せたら気にすることはない。
顔は思い出せるが、名前が思い出せないというケースは年齢や疲れによって頻繁に起こってくる。顔がわかれば良しとしておけばいい。人名や店名や地名などは、思い出す時もあれば忘れる時もある。しかし、顔と名前の両方を忘れて「どちら様?」と聞くようになったら、単なるど忘れではなく、記憶機能の問題かもしれない。それを認知症という。